(劇評)「不思議で怪しいお話群をめぐり歩く」小峯太郎 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
劇評を書くメンバーは関連事業である劇評講座の受講生で、本名または固定ハンドルで投稿します。

 この文章は、2022年11月12日(土)19:00開演のAgクルー『奇譚回廊』についての劇評です。

 不老長寿の新薬の治験者になれるチャンスを得た中年の二人の女性。しかし治験者になるには二つの条件を飲まなくてならない。一つはこれからの人生、毎日、治験経過の監視を受けなくてはならなくなること。もう一つは一生子どもを妊娠出産できなくなること。自由や子どもを持つ夢を犠牲にしてまでも、二人は永遠の若さを手に入れたいと願うだろうか。
 50歳以上のシニア劇集団「Agクルー」メンバーである牛村幸子作『変若水(おちみず)』は星新一のショートショートのような、ありそうでなさそうな不思議な設定の短編の物語だ。
 おそらくコロナ禍以降に書かれたと考えらえるこの作品には、新薬治験の同意書へのサインを迫る怪しすぎる白衣の研究員も登場するなど、否応なくワクチンへの摂取を迫られ続けた私たちの「不条理」な状況への皮肉にも見える。研究員自身も過去に開発された不老長寿薬の治験者であると言い、年齢不詳。彼女の言葉を信じて、二人は同意書にサインしてしまうのか。しかし、スパイシーな物語のオチを期待させる伏線要素の割りにはあっけない幕切れが待っている……。
 金沢市民芸術村リージョナルシアター2022「げきみる」の第1週目を飾るAgクルー「奇譚回廊」公演は、『変若水』の芝居の他に、出演者が本を読みながら演ずる三つの短編のリーディングコンピレーションで構成されている。
 全体のテーマは、不思議な、あやしい、ありそうもない話。女の膝枕を模した人工知能搭載型クッションへの倒錯的フェティシズムを告白した今井雅子作『膝枕』の他、夢野久作『人の顔』と江國香織『冬の日に、防衛庁にて』。
 ただし、江國の作品は「奇譚」とは言い難いし、作品のセレクトや順番がある意図を持って構成されているようには感じない。演出についても、椅子やテーブルの使い方、衣装、朗読者の位置など、作品の解釈やヴィジュアル面で緻密な演出意図が感じられず、ちぐはぐな印象は逆に作品への集中を妨げたように思う。リーディング公演は、単なる小説の朗読ではないはずだ。
 50歳以上の男女が、演劇活動を楽しむために集まったAgクルー。その特色を活かし、もっとメンバーそれぞれの個性や多様性が輝くプレゼンテーションに期待したい。