(劇評)「未来の色はバラ色なのか」中村ゆきえ  | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
劇評を書くメンバーは関連事業である劇評講座の受講生で、本名または固定ハンドルで投稿します。

この文章は、2020年11月14日(土)19:00開演の北陸つなげて広げるプロジェクト『マジックマッシュRoom』についての劇評です。



 今年の「げきみる」はどうしてもコロナ禍の影響が出てしまう。北陸つなげて広げるプロジェクトのダンスパフォーマンスもコロナ禍だからこそ生まれた設定だ。『マジックマッシュROOM』(振付・演出・映像/宝栄美希)は麻薬取締法で禁止されているマジックマッシュルームとコロナ禍で閉じこもらざるを得なかった部屋(ROOM)を掛けている。
 2020年4月、コロナウイルス感染拡大防止のために多くの人が外出を自粛するという選択をした。その頃の私たちの姿をパフォーマーたちは表現していく。あまり色味の強くない衣装は部屋着だろうか。7人のパフォーマーがクッションを持って床をごろごろしていく。しばらく転がっていたが生活する中でごろごろするにも限界がある。パフォーマンススペースに残った3人はそれぞれ本を読み始める。読み終えた本の表紙は次々に床に放り投げられていく。正面のスクリーンには「#7日間ブックカバーチャレンジ」のハッシュタグを使ったSNS画面が投影される。この頃はいろんなハッシュタグ付のチャレンジを目にした。友人の何人かは同じようにブックカバーチャレンジをしていたし、手洗いチャレンジ動画をアップする俳優をよく目にしたりした。○○チャレンジは次にチャレンジする人を指名して繋がっていく。突然直接繋がれない世界になってしまった中で、人と繋がる方法の一つだった。同時にWEB会議システムがものすごい速さで普及していった。そこで生まれたのはオンライン飲み会だ。私も友人に会いたくて、WEB会議システムを利用していた。今でも慣れたメンバーとの打合せはLINEビデオ通話で済ます。移動時間がなくて楽だ。だが自粛していた期間はオンラインしか選択肢がないかのような雰囲気だった。パフォーマンススペースではオンライン飲み会の様子も表現される。先ほどとは別の3人が缶を1本ずつ持ってリズムに合わせて缶を隣に移動させ、回ってきた缶を煽るように飲む。缶を床に置くときの軽快なテンポと音が飲み会の楽しさを伝えてくる。だが、お酒に酔ったのか画面越しの繋がりに疲れたのか、パフォーマーはフラフラとした動きをし始めた。飲み会の雰囲気がトーンダウンし場面が変わる。
 静かに8人のパフォーマーが床に寝そべり、手指を胸の辺りで動かしたり、手のひらをすり合わせたり、天井に向かって伸ばしたりする。スクリーンにはパフォーマーの影が映るだけだ。次の場面ではスペースの四隅のうちの三つに体育座りで3人のパフォーマーがそれぞれ座り、真ん中にスマートフォンが置かれる。そこへれ赤や緑、紫、大きな水玉など、これまでとは違ったはっきりした色目の衣装を着た7人のパフォーマーが入ってきた。カラフルな衣装の7人は同じ方向に行進するような動きがあったり、時々何人かがしゃがみこんだり、折り紙を折ったり、一抱えぐらいある今川焼きの形をしたクッションを3つ空中で重ねたりバラしたり、いくつかの場面が表現されていった。コロナ禍の生活は表現が分かりやすかったが、その後演じられたいくつかの場面はどう捉えていいかわからなかった。部屋の中でオンラインに頼った生活をしていた私達が見た「幻覚」なのだろうか。
 気がつくと黒いシャツにパンツ姿の一人のパフォーマーが正面の奥で踊っていた。スクリーンにはコロナウイルス感染者のグラフらしきものや、口から肺への呼吸を描いたイラストが何回も映し出された。コロナウイルスの写真は何枚も何枚も続いてしつこく感じた。7人は1~2枚の新聞紙を床に置くと、その隅に立った。そして徐々にうつむいていく。黒いシャツのパフォーマーは踊り続けている。7人はどんどん屈んでいく。バックに流れていた音楽が小鳥のさえずりに変わった。スクリーンには草木を連想させる緑が投影されている。7人は屈んでいってそのまま横になった。ここで少し息を吐けた気がする。目に見える緑と小鳥のさえずりは心を緩めてくれた。さえずりが音楽に変わると、パフォーマーは腕を伸ばしだんだん起き上がる。今、私が生きている世界はこの部分かもしれない。スクリーンは緑から赤色のバラのようなイラストに変わった。赤い色はこの先の希望を表す色だろうか。