(劇評・11/28更新)「カワイイの下に隠し持った毒」原力雄 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
劇評を書くメンバーは関連事業である劇評講座の受講生で、本名または固定ハンドルで投稿します。

この文章は、2020年11月14日(土)19:00開演の北陸つなげて広げるプロジェクト『マジックマッシュRoom』についての劇評です。

日本語では「菌」と一文字で書いて「きのこ」と読む。きのこと細菌とウイルスは、それぞれ別物のはずだが、何となく頭の中でゴッチャになっているのは私だけだろうか。今年は新型コロナウイルスに振り回された一年だった。政府が発令した緊急事態宣言やその後も要請された「自粛」により、演劇界も公演中止や入場制限など大きな影響を受けた。そんな中で、「かなざわリージョナルシアター2020げきみる」の一環として、金沢市民芸術村ドラマ工房で上演された北陸つなげて広げるプロジェクト『マジックマッシュRoom』(振付・演出・映像:宝栄美希)。きのことウイルスのイメージをおそらく意図的にまぜこぜに(=マッシュアップ)しながら、自宅待機で気が狂いそうだった日々をシニカルかつチャーミングに描いたコンテンポラリーダンス作品だ。

タイトルは、幻覚作用のある毒キノコ「マジックマッシュルーム(Magic mushroom)」と外出自粛でゴロゴロしていた部屋(Room)を引っかけているようで、やや自嘲気味だ。舞台では、お気に入りのクッションを固く抱き締め、身体をダルマのように丸くして、床の上を転がり回るダンサーたち。同様に、缶入りアルコール飲料で乾杯して飲み干したりもした。また、立ちながら本を読んでいる人に他の人が横から近づいて本をサッと取り上げると、読書家の手にはきれいなブックカバーだけが残るシーンは、緊急事態宣言の頃にSNSで流行した「ブックカバーチャレンジ」を思わせた。本を取られた読書家はカバーを床に投げ捨て、また次の人から本を奪う……。やがてブックカバーが床一面に散乱するのだが、その数と鮮やかな色彩は、自粛期間の長さと心の中に積もり積もった鬱屈の量を示していた。

そんなユウウツ極まりない日常の中で、いきなり可愛い衣装に身を包んだアイドルたちが現れて踊り出す。その衣装には目も覚めるような原色や水玉模様が使われており、毒キノコを連想してしまった。そのシーンでバックに流れたNiziU(ニジュー)のヒット曲「Make you happy」。今年6月にプレデビューしたNiziUは日本人だけで結成されたK-POPガールズグループであり、新人ながらミュージック・ビデオの再生回数は1億6000万回と驚異的な記録を打ち立てた。私もいち早くファンクラブに入ったが、今回のダンス作品を踏まえて考えてみれば、彼女たちはコロナ下で蟄居を余儀なくされた人々の眼に差し込んだ美しい幻だったのか。やがて正面のスクリーンにウイルスを拡大した顕微鏡写真や感染者数が増加の一途を辿るグラフが表示される。その前で男性ダンサーがソロで乱舞した挙句に倒れ込んだのだが、コロナによる死を表現しているように見えた。

かなり無惨な話にもかかわらず、出演した8人の市民ダンサーたちにはほんわかした雰囲気が漂っていた。本当にいい人たちなんだな、と思った。しかし、終盤にドキリとさせられるシーンがあった。ダンサーたちは床の上に仰向けに寝転び、両腕を下から持ち上げながら、きのこが土の中から伸びて傘を膨らませていく様子を群舞で表現していた。気になったのは、きのこを演じるダンサーたちが、身体の下に「新聞紙」を敷いていたことだ。新聞紙を敷いたからには、野や山に自生するきのこではあるまい。鉢植えの屋内栽培に違いない。その少し前にスクリーンで流れた映像には「(マジックマッシュルームは)2002年に規制された」と文字で明記されていた。すなわち現時点では違法と知りつつ、栽培していることになる。

人々が「自粛」した果て、幻覚を見るに至ったという設定自体が社会に対する皮肉になっていた。また、善良そうな顔をした市民ダンサーたち自身がどこまで毒キノコの栽培という意味を理解していたかは不明だが、わかっていながら外面(そとづら)を取り繕っていたのなら、相当の確信犯だ。いずれにせよ、この作品がカワイイ装いの下に「毒」を隠し持っていたことは間違いない。