(劇評)「独自のスタイルを貫く金沢の中堅劇団ー劇団羅針盤『空ニ浮カブ星ノ名ハ三日月』」猪谷美夏 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2018年11月24日(土)19:00開演の劇団羅針盤『空ニ浮カブ星ノ名ハ三日月』についての劇評です。

 ヤクザを主人公としたハードボイルド要素のある物語に、コミカルなシーンが随所に盛り込まれ、スピード感のある演出。『空ニ浮カブ星ノ名ハ三日月』(作•演出:平田知大)のアクションエンターテイメントを見た。五条組のヤクザ、一松鉄司(平田知大)は服役を終えて出所し、組の本拠地に戻った。迎えに来た弟分の三郎(能沢秀矢)に、組長や組の人間は何者かにやられ、一松が幼い頃から見守ってきた組長の娘、透子(矢澤あずな)を残し、組はなくなっと告げられる。透子はオカマバーを営み生計を立てながら、交際相手の従業員ナナセに熱を上げていた。そこから、麻薬取引を行う権藤ファミリーや刑事たちが登場し、一松たちとのやりとりが繰り広げられる。ある日、透子が酒に酔って車ごと店に突っ込んだ。どうも様子がおかしい透子。権藤ファミリーから奪った「赤いシャブ」という麻薬を資金源にしていた透子は、自らもその薬を常用していたのだ。

 劇団羅針盤は多作で、今年は月に一度公演を行っている。作品も子ども向けのものがあり、一概には言えないが、今回のようなエンターテイメント系の作品で、設定が複雑、一人何役も演じる、スピード感があり早口ということが挙げられるようだ。今回も例に漏れず、話の内容をつかむことができなかった。途中、刑事たちが麻雀をするシーンや、港のシーン、高校時代の透子の回想シーンなどを経て、終盤は権藤ファミリーのアジトのシーンで物語の全貌が明らかになる。透子が薬に依存するようになった秘密は恋人ナナセ(能沢秀矢)に扮した、権藤ファミリーの一員シノミヤによるもので、さらに、そのシノミヤの正体はカガミという刑事だったのだ。カガミはマフィアやヤクザの中に入り込み、麻薬を利用して彼らを始末するという、警察による闇の企ての実行役だった。「赤いシャブ」という、投薬された者が血に飢えるようになる恐ろしい薬を、カガミは透子に投与し、彼女に人殺しをさせていたのだ。さらに、透子はこの麻薬によって一松をも殺めようとするが、透子の目を覚まさせようとした一松は、自ら透子に刺される。一松の愛情に気付いた透子は、一命を取り留めた一松とともに、復讐に立ち上がるところで終演する。

 一松はTシャツにジーパンの上に、長袖の袖のない和服をはおり、透子も和服テイストな衣装にミニスカート(?)を合わせた衣装。権藤ファミリーは毛皮のコートや洋風なテイストで揃えられ、全体的にマンガやゲームの想像上のキャラクターのようだった。派手に切り替わる照明や音楽の中、芝居が進められた。舞台セットはほぼなく、麻雀シーンで雀卓が出てきたのと、何度か三日月が舞台後方上部に映し出されたくらいだった。次々と変わる場面は、照明、音響と演技だけで一瞬でその切り替わりが表現され、テンポの良さを作り出していた。そのスピード感が仇となり、切り替わった後の場面がどこなのか、一人何役もやっていたこともあり、誰が何の役を演じているのかもわかりづらい部分があった。役者が必死に演じているのに、見ている側がそれが何の役かわからない。また、劇団羅針盤の作品に対するこれまでの劇評のいくつかにおいて、早口で物語がわかりづらいという意見が少なからず見られる。それは劇評を書いてない多くの人の中にもそう思う人がいるという可能性が高いこと、そしてこのスタイルがあえて貫き通されているということを示す。当日パンフレットにも「え?誰が誰か分からなくなる?大丈夫です。我々だって分からないんですから」と書かれていた。この演出のスピード感や一人で何役もこなすドタバタ感をもって、観客に対してあらすじや、人物や場面などの最低限必要な情報を提示することができていたら、私はもっと楽しめたと思う。今回見た公演では、私には疾走感が不親切さとなった。