ハロプロのキャリア戦略の変化について | カバオの現場探訪記

カバオの現場探訪記

ハロプロのこと、現場のこと

先日、モーニング娘。12期メンバーの尾形春水さんが、春ツアー千秋楽での卒業を発表しました。ツアー開始後、残り3ヶ月を切っているという状況での発表で、尾形推しのみなさまの心中を慮ると薄情な自分でもつらいものがあります。
 
卒業の理由は、端的に言えば「短大に進学が決まり、カリキュラムから活動との両立が困難であり、4年制大学への編入を目指すためにも卒業する」というものでした。この理由が、ヲタの中で様々な議論を呼びました。
 
Twitterでもちょっと触れましたが、個人的には「自分のこの先のキャリアを考えて、モーニング娘。を卒業する」という決断は、昨年の工藤遥と同じ種類のものだと捉えています。
 
ただ「大学進学」というフレーズが、これまで「モーニング娘。は忙しいので進学を認めていない」と思っていたヲタの間に色んなハレーションを生んでいます。
 
西口社長の文面からは、少なくとも事務所は受験を認め、さらに両立が可能なら在学したまま活動を継続する選択肢もあったことが示唆されています。これはアンジュルムなどのメンバーが複数、大学進学後も活動していることからもハロプロ全体の方針と思われます。
 

・出口の多様化戦略

前置きが長くなりましたが、ここで触れたいのはタイトル通り「ハロプロのキャリア戦略」です。表に出ている事実をベースに、推論を展開するという形になりますので、あくまで私個人の「解釈」だと思ってください。「じゃあ、あのメンバーの卒業はどうだったんだ」とか言わないでください(笑)
 
かつて(というかわりと最近まで)ハロプロ卒業後のキャリアは、ハロプロのメンバーとして活動をできる限り続け、活動を通じて知名度を高め、そのベースの上で卒業後も芸能界で仕事をするという黄金期に確立されたメソッドが基本だったと思います。
 
しかし、黄金期ならいざ知らず、今はそれではどうにも立ちゆかないことは、さすがのアップフロントでも気付いたようです。
 
一方で、近年は新ユニットの増加と既存ユニットの増員で、ハロプロの正規メンバーの人数は5~6年前(モベキマスの頃)から大幅に増えています。その是非はともかく、それに対応するのが、最近の動向から垣間見える「出口の多様化」という戦略です。
 
この「多様化」には大きく分けて2種類あります。
 
一つは、ハロプロの活動を下敷きにしたキャリアを提示すること。もう一つは、ハロプロの活動から離れたキャリアを選べること。
 

・ハロプロの活動を下敷きにしたキャリア

前者の代表格が、工藤遥と鈴木愛理です。
 
工藤は娘。に居続ければ、長ければあと5年は人気メンバーとして稼いでくれたでしょう。その工藤を先輩、同期の年上メンバーより早く送り出し、卒業後すぐに戦隊モノのレギュラーという大きな仕事の道を敷きました。
 
もちろん本人の努力もあってのことですが、事務所の強いバックアップも当然あったでしょう。18歳という、テレビ女優としてキャリアを重ねるにはすでにそこそこの年齢であることを考えれば、上々のスタートだと言えます。
 
鈴木愛理には、武道館ソロライブという箱を用意しました。
 
愛理がシンガーとして稀有な才能の持ち主であることに疑いはありませんが、今までのアップフロントのやり方は「まず小さな箱から始め、ステップアップ」が基本でした(プロデュースのまずさもあってステップアップできない例が続いていましたが)(LoVendoЯの初期にフォークカバーでライブハウスやらせた責任者出てこいよ)
 
ところが、愛理は℃-ute解散後に自作の曲を含めたアルバムを準備した上で、ホールをすっ飛ばしていきなり武道館です。人気メンバーでRayのモデルなどで個人としての知名度がある愛理でも、ソロシンガーとしては駆け出しなのに。
 
ともかく、卒業してからも芸能界で個人として大きな成功を収めるメンバーを出すことを目指しているのが、この今までとは違う売り出し方に明確に現れていると感じます。
 
逆に言えば、工藤遥や鈴木愛理をどうにかして成功例にしなければいけない、というプレッシャーも今、あるはずです。この2人で成功できなかったら他の子でも無理だろう、というくらいの人気メンバーによる大きなチャレンジです。
 
2人に加え、岡井千聖のバラエティ番組へのプッシュ(発言の自由度の高さ)も、この系譜に入れてもいいかもしれません。田村芽実のミュージカル女優への転身(とそれに伴う円満な事務所移籍)も、この流れに位置づけられます。

(実は矢島舞美もプッシュの流れに乗せようとしていた節があります。あくまで「ちょっと小耳に挟んだ」レベルのエピソードや現在の状況からの推測ですが)
 
最近、表舞台に復帰しましたが、清水佐紀の「ハロープロジェクトアドバイザー」というのも、培ったスキルを活かしつつ、裏方として事務所に残るというひとつの進路ですね。
 
 

・ハロプロから離れたキャリア

もう一つの「キャリア」の象徴はやはり嗣永桃子だと思います。
 
「ももち」が引退して教育の道に進むという選択は、大きな話題になりました。すでに一定の地位を築いていたので芸能界に残っても成功したと思いますが、本人は10年以上アイドルをやりきって次の道に進むことを決めました。
 
本人が目撃してもネットに書くなとか、徹底して表舞台に出ることを拒否する姿勢を示して卒業していったため、教育に携わった成果についてはヲタクからは見えないものの、嗣永桃子は努力する超人の類なので何かをやり遂げそうな気がします。
 
嗣永桃子の進路選択は事務所が主導したものではないにせよ、繰り返し報道されることの効果は当然ありました。
 
現役メンバーでは、和田彩花や竹内朱莉のように元々好きなこと、得意なことを大学に進学してさらに深く学び、それをアイドルとしての仕事に還元しているケースもあります。これは歌やダンス、演劇などハロプロのメインの活動からは離れたものです。
 
彼女たちが今後、どんな道を行くのかわかりませんが、芸能界に残るとしても、引退して別の道に進むとしても、卒業後のキャリアに役立つものを大学で学んでいることはたしかです。先に触れた鈴木愛理も、大学進学という点では先駆者の一人です。
 
この春はこぶしファクトリーから野村みな美が大学進学を決め、広瀬彩海が(今年は)進学しないことを表明しました。この春に大学1年生になる学年のメンバーは今やハロプロ最大勢力ですが※、進学がはっきりしているのは野村だけです。
 

・なんのための多様化か

「アイドル卒業後の人生の方が長い」とよく言われますが、ハロプロ以外も含めて今、テレビの音楽番組に出られるクラスのいわゆる「メジャーグループ」でも、個人として芸能界に残れる人がどれだけいるのか、というのは想像すればすぐわかることです。
 
ハロメンの人数が増えていく中で、今までどおりのやり方では卒業後、事務所で全員の面倒は見られないし、残るにしても何かセールスポイントがないと仕事をとってこられない、というのがまずあります。事務所を辞める場合も、学歴があるとないとでは違う、ということもあります。

もう一つは、オーディションを開催するに当たって、有望な子に今後、他のグループではなくハロプロを選んでもらうため、というのもあるでしょう。前者は「工藤遥や鈴木愛理になれるかもしれないハロプロ」という意味で、後者は「アイドルを卒業したあとのことも考えて現役のうちから準備できますよ」という意味で。
 
芸能界で成功したい!という強い気持ちがある子にとって、ハロプロ経由で個人として大きな実績を残したメンバーがいるといないとでは、魅力がだいぶ変わってくると思います。特に、工藤はテレビに出る道を選んでいるので、若い子には訴求力があります。

現状、グループとしての規模や売上では48Gや坂道が今は圧倒的で、オーデでもおそらく人材を取られています。ただ、あの薄利多売スキームには卒業後に個人を売り出す仕組みがあまりなく、規模の割にグループを離れてから年単位で大きな成功を収めている子は多くありません。付け入る余地はある…(かなあ)。
 
大学に進学を認めることは、親御さんへの安心材料になるのではないかな。青春を捧げて20代でなにも知らず、学歴もないまま世間に放り出される可能性が少しでも小さい方がいいに決まってますからね。
 

・ヲタクにできること

で、話を最初に戻しますが、尾形春水の進学をめぐるあれこれも(もしかしたら加入の時点から)この文脈にあったのでは、というのが個人的な推測です。
 
事務所は仕事の調整などどれくらいサポートする気があったのかわかりませんが(受験勉強のために負担を減らしてくれた様子はみられません)、少なくとも4年制大学に進学し「女子大生のモーニング娘。」が実現していたら、それなりに利用していたと想像します。
 
ただ、この時期の急な発表になったことなど、どこかでボタンの掛け違いがあったのも否めない・・・ように思います。偉い人と現場スタッフの乖離もあるかもですし。ま、真相はヲタクにはわからないし、ヲタクはメンバーを応援することしかできませんけどね。
 
せめて、モーニング娘。を選んだことも、進学を選んだことも、どちらもあとから振り返って後悔のないものであってほしいと願うばかりです。
 
 
※モ:佐藤野中加賀森戸 ア:上國料川村 J:なし カ:(森戸) こ:広瀬野村 つ:新沼谷本岸本 で計11人もいる。
かつての最大勢力「ばくわら世代」が毎年卒業者を出す中、工藤が卒業した以外は増え続けている。いわゆる「まーどぅー世代」なのにどぅー卒業しちゃったけど。