〔控訴人〕

   ア 被控訴人らの人格権について

     被控訴人らの井戸水、水道水等の使用の有無は知らないが、少なくとも飲用の事実はないし、被害を受けるという主張は否認又は争う。アの主張のうち、()は、水質汚染が受忍限度を超える具体的な主張がない(なお、被控訴人らは安定型最終処分場は欠陥商品であって、受忍限度論の適用がないというが、廃棄物処理法を認めない立法論であり、許されない。)し、水道水を供給する大峰浄水場は、本件予定地から約1.5kmも離れており、地下水の希釈度を全く考慮していないし、他の浄水場は、同じく約5km上流側に離れており、なおさらである。()の農業用水は、人が飲用するものではなく、根拠薄弱である。

   イ 本件処分場による水質汚染について

(ア) 被控訴人らの前記主張は否認又は争う。イの主張のうち、()()は本件処分場とは関係がない本件の主要な争点は、井戸水の水質汚染の高度の蓋然性があるかどうかであるから、その点は鑑定の結果ではその存在は否定されたと評価でき、その存在を前提とした被控訴人らの主張は理由がない。なお、原審は、フタル酸エステルをはじめ、多くの廃プラスチックの添加剤が安定型最終処分場において処分されると水質汚染等を引き起こす可能性があるとして、これを汚染の元凶のように認定したが、同物質は、ポリ塩化ビニルを柔らかくする可塑剤として使用されていて、いわば人間の日常生活にとって身近な製品に使用される物質であり、その毒性もきわめて弱いのであって、原審認定は不当である。

(イ) 被告人らの差止請求権について

生活用水は、体内に取り込まれる経路が農業用水より更に間接的であり、直接飲用する飲料水とは異なり、人体への影響の有無及び程度は明らかではない。したがって、事前差止請求権が認められる可能性があるのは、井戸水を飲料水として利用する被控訴人杉本利雄、同太田裕文、同岩丸博重、同中村春夫及び同江藤和利に限られる。しかし、これらの被控訴人らはいずれも、本件予定地の西又は南西、北西の位置で相当程度離れており、本件予定地付近の地層は東に傾斜していることから、井戸水が影響を受けるとは到底考えられない。また、現在、いずれの被控訴人も上水道施設を設置して水道水を飲料水として利用しており、井戸水を飲料水としていない。さらに、大峰浄水場は、平成13年8月から平原ダムが完成するまでの間、北九州市から企業団を通じて、暫定的に1日につき2300㎥の入水を受け、これを各家庭に配水していて、現在、深井戸による揚水を行っていないから、大峰浄水場からの配水が本件処分場の影響を受けることはあり得ない。したがって、被控訴人らの差止請求権は認められない。

(ウ) 控訴人の選別能力について

      廃棄物については、① 排出事業者自身が自らその産業廃棄物を政令等で定める産業廃棄物処理基準に従って処理しなければならず、② 控訴人によって再度中間処理施設である仲原選別場において選別がされている。控訴人は、これまで仲原選別場で選別した産業廃棄物を控訴人所有の安定型最終処分場である内住処分場に搬出して、そこに埋立処理していた。内住処分場における平成10年以来の水質検査の結果は、いずれの数値も法の定める基準を大きく下回っており、控訴人が適正な選別作業をしていることは明らかである。

ウ 控訴人の後記主張に対する反論

(ア) 控訴人は、福岡県知事から設置許可を受けたので、本件処分場は安全であると主張するが、単に廃棄物処理法の要件を形式的に審査してなされた許可があることと安全であることとは関係がないし、その許可には、以下のような重大な瑕疵があり、無効であるから、その主張は理由がない。

すなわち、福岡県には、「福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例」があるが、これによると、産業廃棄物処理施設の設置に伴い生活環境に著しい影響が生じるおそれがあると想定される地域を関係地域と指定し、設置者は、原則として前記関係地域内において関係住民らに対して事業計画説明会を開催して事業計画の周知をはからなければならない(同条例7条、10条)。

しかし、本件処分場の設置許可については、前記関係地域の指定に不備(説明会の開催の通知等がない。)があり、事業計画が周知されないなど著しい瑕疵がある。さらに、控訴人は、本件処分場の設置許可及びこれに必要な諸手続きにおいて、故意又は重大な過失のもとに種々の法令違反若しくはこれに類する違法不当な行為を繰り返しており、本件処分場の設置許可は無効と見るべきである。

さらに、控訴人は、計画を変更して、軟弱地盤対策、排水対策をし、埋立計画を見直したとも主張するが、福岡県知事に必要な変更計画書を提出したわけではなく、実現そのものが不確かな計画を前提に安全性を判断することはできないし、その対策は、本件予定地の特殊な地理条件に照らして不十分であり、むしろ、本件処分場の擁壁建設予定地の一部は、川崎町が公園予定地として取得しており、計画どおりの処分場すら建設できない。

(イ) また、控訴人は、本件で受忍限度論を主張しているが、人格権、特に生命や健康に関係する平穏生活権において、それと比較衡量すべき価値があるはずもなく、受忍限度論はそもそも採用すべきでない。仮に、採用してもその基準事態を「有害物質を含まないこと」とすべきである。本件処分場が福岡県の設置許可を受けていることは、公法上の基準を満たしているとはいえるものの、平たくいえば、一般的抽象的な基準に合致したというにすぎず、本件処分場の個別的な安全性を根拠付けたり、これを担保するものではない(上記(ア)で述べたとおり、本件処分譲設置許可処分は無効というべきものであるが、仮にそうでなくても、本件処分場予定地及びその周辺には、旧炭鉱の坑道跡が走っているほか、予定地内には湧水点が多数認められ、これらは地盤の安定や地下水汚染対策に際して考慮されるべき重要な事実であるのにもかかわらず、控訴人はこれらをまったく無視して、その対策を怠ったまま許可を得ているし、福岡県の審査もきわめて形式的であって、福岡県が出した本件処分場設置許可が安全性を担保しないことは明白である。)。また、本件処分場の公共性は、逆に控訴人の責任を加重すべき根拠というべきである。

(ウ) また、控訴人は、受忍限度を超える被害を受ける高度の蓋然性の立証責任は被控訴人らにあるとも主張するが、本件のような人格権侵害(被害)の高度の蓋然性について一応の立証をすれば、施設設置者側が、それにもかかわらず侵害発生の蓋然性のないことを立証すべきである。すなわち、① 一般の住民と専門の業者とでは専門知識で相当の差があるため、証明の公平な負担を図る、② 施設の設置者には、事前に環境影響調査など被害が出ないように具体的で万全の配慮が求められる、③ 操業前の施設に関しては、将来の影響を性格に証明することは困難である、などの理由からそのように解すべきであり、現に多くの裁判例で、立証責任が軽減されている。

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たがって、本件処分場からの有害物質の流出により上記飲料水等が汚染される蓋然性があるときは、人格権に基づき、曽野侵害を予防するため差止請求権を有することは明らかである。

(イ) 被控訴人Dは、本件予定地を水源地の一部とする野呂ヶ池~流出する水を取水して農業用として利用し、また、被控訴人A、同C、同I及び同Jは、本件予定地近くの井戸(それも予定地の地表面より下方の井戸)からの水を農業用水としても利用している。もっとも、地下には炭鉱が本件予定地方向に向かって伸びており、被控訴人らの井戸と本件予定地あるいは本件予定地の下流域との地下は繋がっているから、本件予定地と井戸との間の高低差は決定的な要因とはならない。そもそも飽和地下水は、地下水位(水頭)の大きいほうから小さい方へ緩やかに移動するのが原則であり、地層の傾斜や谷の存在とは無関係である。人格権の一環として認められる平穏生活権には、自らが食する食物を汚染されないという権利も包含されるので、上記被控訴人らには、本件処分場からの有害物質の流出により農業用水が汚染され、それによって自らが作る食物が汚染される蓋然性があるときは、人格権に基づき、その侵害を予防するため差止請求権がある。

(ウ) 本件のような人格権侵害に基づく廃棄物処分場の操業等の差止訴訟においては、住民側が人格権侵害(被害)の高度の蓋然性について一応の立証をすれば、施設設置者側が、それにもかかわらず侵害発生の蓋然性のないことを立証すべきである。

   イ 本件処分場による水質汚染

(ア) 本件処分場は、安定型最終処分場であって、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず、陶磁器くず及び建設廃材などのいわゆる安定5品目(ただし、シュレッダーダストに係るものは除く。)を埋立処分するものであるが、① 前記安定5品目に残存・付着している有害物質が漏出したり、安定5品目の化学変化等により有害物質が発生する危険性があること、② 安定型廃棄物以外の廃棄物との分別が困難であること、③ 安定型最終処分場における水質汚染が日本全国においてきわめて広範に進んでいることなどは明らかである。

(イ) 控訴人は、本件処分場が何らの遮水工を施すことなくそのまま埋め立てる方式を採用しているのであるから、安定5品目以外の廃棄物の混入を防ぐための分別をすべきであるが、控訴人が予定している選別方法では、多種多様の廃棄物が混合で排出される建築系廃棄物について的確に安定5品目を選別することはできない。

すなわち、仲原選別場に排出業者から持ち込まれる廃棄物中には、木材、紙くず、繊維くず、有害物質を含む有機溶剤又はその容器等、石膏ボード、電気製品、一般廃棄物等が相当量混入していることは明らかである。

控訴人は、これらを分別していると主張するが、仲原選別場で行っている粗選別は、アスベストの処理方法において廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に抵触している恐れがあり、プラスチック類やケイカル板の中から安定5品目以外のものを取り出す作業が適正に行われているとは言い難い。コンベアー選別についても、磁力選別機による金属くずの選別以外には基本的には手選別そのものであって、選別能力は高くないし、その残渣は安定5品目以外のものが付着混入していることを否定できず、しかも建設現場から出た土砂との混合物として処理しており、専門業者としての知識も管理能力もない。

控訴人が主張する水質検査の結果は、内住処分場の実態を反映したものではないうえ、平成19年に新設された観測井戸は地下水温としては異常に高い水温であり、かえって内住処分場の異常性を示している。

そのほか、控訴人は、埋立計画を無視した埋立を行ったり、野球場と埋立地の境に囲いを設置しなかったり、許可された開発行為に係る面積を大きく超えた森林法違反の埋立を行ったり、積荷目録性に係る産業廃棄物管理票(マニフェスト)に違法な記載をしたりしており、廃棄物処理法軽視の姿勢が顕著であって、控訴人に適正な選別処理を期待することは到底できない。

(ウ) 本件予定地付近は、地下水脈が浅く、表層の地質が軟弱で地耐力に欠け、断層が多く存在し、また、いわゆる旧筑豊炭田のあった場所であって、「旧三矢三坑本卸」、「旧三矢三坑本卸連」の2本の坑道から延びた坑道のほか、他にも坑口のある坑道があるが(なお、原審での鑑定の結果、被控訴人らが考えた位置に、その証拠となる古洞は発見されなかったが、控訴人の費用の都合で3本しか試掘が出来なかったことや、石炭採掘が付近で行われたことは、他の証拠から明らかであることから、被控訴人らの主張に影響を及ぼさない。)、これらの坑道は落盤したり、崩壊して広範囲にわたり地盤沈下を起している。野呂ヶ池も、昭和44年に亀裂と漏水が発生し、鉱害の認定を受け昭和46年に改修工事が行われている。そして、本件処分場は、その軟弱な地盤の上に擁壁や仕切塸提を設け、大量の廃棄物を埋め立てる計画であるため、地盤沈下及び地滑りのおそれがある。地盤沈下及び地滑りは発生したときは、擁壁等が崩壊し、土砂とともに有害物質を大量に含んだ廃棄物が流出し、直下の野呂ヶ池を汚染することが明らかである。