ケニアの旅の終わりに… | 写真家・小澤太一の『logbook』

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小澤太一のなんでもない毎日の記録集

ケニア最終日の朝、僕はずいぶん山の奥にいました。これまでの旅よりもずいぶんいろんな経験をしたケニアの旅でしたが、最後はとても居心地がいい場所を見つけました。日本から持って行ったケニアの地図にも載っていないような小さな小さな村の中に、素敵なロッジがありました。高地にあるためすごく寒くて、電気や水が止まったりして、wifi環境もなく、そして近くには警察署がある(!)。いろんなストレスがいっぱいあるような場所を旅の最終目的地として選んだのです。ここでケニアの旅を終わりたい…そう思いました。当初行くかもしれないな、と思っていたマサイマラやアンボセリなどの大きな国立公園に行くのを全部やめちゃいました。ケニアに行ったのにマサイマラに行かないなんて、東京に来た外国人が浅草に行かないのと同じようなもんです。じゃ、どこを見たのだと…(笑)

最終日の午前中まで、四日間もそのロッジに滞在しました。毎朝、太陽が遠くの低い山の稜線から昇ってくるのを眺め、学校に行く子どもたちを見送って、チャイを飲んで、夕方までたくさん撮影をして、夜ご飯が待っているロッジに戻り、凍えながら暖房の無い部屋で毛布にくるまって寝る…どんなに寒くても、留置所での夜にくらべたら快適です。ナイロビの空港まで、車で10時間もかかるような場所でしたが、またそこに行きたくなる場所があり、会いたくなる人がいました。

世界ではいろんなことが起こります。今回の留置所生活ではそれをより強く感じました。まず多くの人にご心配をおかけして申し訳ありませんでした。たくさんメッセージをいただいたりしてびっくりしています。ひとつひとつに丁寧にお返事ができなくてすみません。自分の旅のやり方がよくなかったのかも…といろいろ考えたりもしています。ひょっとしたら慣れ…の甘い気持ちもきっとあったことでしょう。僕よりもうんと世界のいろんなことを知っているある人が、僕の写真を見ながら話をしたときに、『コザワさんの写真は性善説だよね』と言ってくれた言葉を思い出しました。

『相手を信じ、相手に信じてもらって、だからこそ撮らせてもらうことができる』

それがすべてにおいて通用する手法とはとても思っていません。だけども、疑うことでは撮れないが写真があるとも思っています。信じてもらうためには、たとえば時間がかかるケースもありますし、こちらをさらけ出す必要があるケースもあります。誤解があるような書き方になってしまうかもしれませんが、リスクを冒したからこそ、得られる何かが写真に写ることもあるはずなんです。だからちょっと海外に行った観光写真と、そうでない写真は違ったように見える…

写真というツールは、残念ながら実際に現場にいないと撮れないツールです。絵や文章とは圧倒的に違う…目の前に見えているものしか写らない…いや、見えていても写らないものもいっぱいあります。だからこそ、まずはそれが見えるところにいないと、写真家としてはダメだと思うんです。いろんなものを見て、感じて、その見えにくいものをなんとか見えるような形に写し出し、そしてそれを人に見せる…この作業がやはりとても大好きなんだな、と、なにもできない留置所の空を見ながらよく考えました。留置所内で見つけたキレイな光や楽しそうに日向ぼっこしている姿を見ながら『あっ、今、これ撮りたいな…』と思うことは何度もありました。そしてそれらは残念ながら移すことができませんでした。それらが撮れるとしたら、たぶん留置所内での生活も、そんなに悪いものではなかったのかも…と、今なら思えたりするのも、きっと余裕がでてきた証拠なのかもしれませんね。

留置所にいた時、ここから出たら日本にすぐに戻る考えも選択肢のひとつとしてありました。ただ、警察署のボスからも旅を続けて問題ないよ、とのお墨付きをもらいましたし、なによりここで日本に戻ると、きっとケニアのことを嫌いのままで、もうケニアに一生来ないだろうな、と思ったのでした。予定していた帰りの飛行機までまだ一週間以上もあり、もっとケニアを見てみたい…そう自分の素直な気持ちとして思えたので、気を引き締め直して旅を続けました。それは間違ってなかった判断だと今は思っています。もちろん、無事に帰国の飛行機に乗れたからこそ思えることであるのも充分承知しているのですが…おかげで今はケニアのことが大好きです。

2015年7月3日 深夜22時22分。帰国便、ドバイ発羽田便にて。

繰り返しになりますが、ご心配おかけしてすみませんでした。そして、これからもよりステキな写真が撮れるようにがんばってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。とりいそぎ、次の海外、じつはもう今週出発です…

【ケニア留置所生活】
旅先のケニアで留置所に入れられた時の生活記録です。
★vol.1
★vol.2
★vol.3
★vol.4


【今日見た写真展】
147:『地平線の彼方から ― 人と大地のドキュメント』野町和嘉<フジフィルムフォトサロン>
148:『知られざる日本芸術写真のパイオニア』塩谷定好<フジフィルムフォトスクエア>
149:『単焦点レンズの深淵』<フジフィルムXギャラリー>
数字は4月から見た写真展の数です。