夏祭りの夜、直樹と由美は狐の嫁入り道中で知られる村を訪れた。
村人たちは皆、一様に奇妙な仮面をかぶり、白装束を着ていた。
「これが狐の嫁入りか」と直樹が言うと、由美は「なんだか変な感じがする」と囁いた。
やがて道中が始まり、仮面をかぶった人々が笛や太鼓に合わせて踊り出した。その中に、真っ白な着物を着た美しい花嫁が現れた。
「見て、すごく綺麗」と由美が言ったが、花嫁はじっと直樹を見つめていた。
彼女の目はまるで狐のように光り、直樹はその視線に吸い込まれるように近づいた。
その瞬間、花嫁はニヤリと笑い、直樹の手を引いた。
由美が「どこ行くの!」と叫んだが、二人は人々の中に消えていった。
翌朝、由美は一人で村の外れで見つかったが、直樹の姿はなかった。
以来、狐の嫁入り道中で花嫁に見入られた者は二度と戻らないと言われ、村人たちはその夜、家に閉じこもるようになった。