何かパーツが一つ欠け落ちているような。
描かれるべき美由紀とユカリのエピソードが書かれていないため、何故美由紀がユカリを憎んでいたのかわからない。
美由紀が何故死んだのか、自殺なのか事故なのかも書かれていない。
作者の中でのみ納得した状態で書かれているため、読者に対して大変に不親切。
また「天井に事故死した女性の遺影がかかっているトンネル」が、普通に有り得ないと思った。
私の知る限り、そんなトンネルは見た事がない。
設定の甘さと、都合の良さばかりが目立った。



 発想  0 描写 -1 構成 -1 恐怖  0 




怪集/2009 友情

所々文の粗さが見えたりもするが、内容としてはなかなか面白いと思う。
カチャカチャという翅の音が、滋の精神が次第に壊れていく様を表していて、こういう音の使い方は上手い。
ただ、気になったのは隣の住人の彼女である女の子。
男子学生専用で女性の出入り禁止であるマンションで、隣室だからといって女の子の方から声を掛けてくるのは不自然。
普通は彼氏に迷惑を掛ける事を恐れ、極力見つからないようにする筈で、自分から積極的に声を掛けるという事はないのではなかろうか。
ドアを開けた時に偶然出くわしてしまって、「すみません。他の人には黙ってて下さいね」と口止めをするならわかるが。
また、ラストに滋の部屋に入り込んできた女の子の行動も少々不自然。
滋から人形を奪い取って眺め回してから「汚い」と窓の外に放り投げているが、奪い取ってから放り投げる間に人形をつぶさに観察するというワンクッションが入るため、その行動が妙に冷静に見える。
本当に激昂しているのなら、滋から人形を取り上げたその場で即座に床に叩きつけるなり外に放り投げるなりする方が自然な気がする。
その辺にちょっと都合の良さを感じた。



 発想 +1 描写 +1 構成  0 恐怖  0 




怪集/2009 蝶々妹

何と言って良いのやら。
「男の森の小裸」は滅茶苦茶なようでいて、混沌の中に一貫して芯になるものがあり、それなりにちゃんと意味があったのだが、これにはそれがない。
投げた先に着地点がないのだ。
それ故、言葉の遊びにもなっておらず、意味も繋がりもないエピソードの羅列でしかない。
私にはそのようにしか見えなかったし、申し訳ないが、この作品の良さというものを見出す事が出来なかった。



 発想  0 描写 -1 構成 -1 恐怖  0 




怪集/2009 シデ、ムシ

…………。

えーと。
これはホラーなのか。
つーか、小咄…?

私が読みたかったのは純然たる恐怖なので、申し訳ないが、私のツボではなかった。



 発想  0 描写  0 構成  0 恐怖 -2 




怪集/2009 わらいごと

内容はかなり好み。
出だしの文体も硬質で、期待しながら読み進めたのだが、里奈と並木のさながら夫婦漫才の如きやりとりに膝が砕けた。
並木が「ムラ社会」の持つ集団的陰湿さを語り出した時、そのまま伏線を暗示させる方向に持っていくかと思いきや、里奈がじゃれて来て中断してしまう。
ここではもう少し並木に「ムラ社会」について突っ込んだ話を展開させても良かったと思う。

ストーリー進行上必要なのかも知れないが、里奈が登場する度にドタバタとした印象を受けてしまう。
まるでテレビドラマやアニメのコミカルなシーンを見ているようで、そこまで過度な演出が必要だろうかと思った。
キャラが立ち過ぎていて、里奈の登場場面ばかりが目立って、苛立たしく感じた。
居酒屋の場面をもう少し整理し、その後を含めた里奈の登場場面のドタバタ感を無くした方が、シンプルに伝わりやすかったように思う。
多分、これは好みの問題もあるのかも知れない。
内容自体は興味深かっただけに少々残念。
ただ、短い時間にこれだけのものが書ける力量は大したものだと、素直に凄いと思った。



 発想 +1 描写 -1 構成  0 恐怖  0 長文力に +1 




怪集/2009 シュレーディンガーの蚊帳