※妄想のお話です。
お前、またか。
いや予想してたわお前のことだからな。
…と、言われてしまいそう(笑)
ごめんなさい、基本的に波風立たせてこそだと思ってる←
朝。
何て清々しい日なんだろう。
俺の最高記録(らしい)4回は超えられず3回だったけど、それでもその時を除けば最高記録だ。
加えて今日は俺の苦手な釣りに来てるけど、俺めっちゃ元気!
ハイ!テン!!ション!!!
智くん曰く、上手い下手とかいう以前に俺らは相性が抜!群!に良いらしい。
まさこんなに合うとはって途中で独り言のように漏らしてたのを俺はばっちり聞いてしまっている。
前回は酔いまくってたからな!
俺本領発揮してなかったしな!!
なんかすげぇ腰痛そう~に、恨めしそう~に俺のこと見てるけど、全然平気!!!
断言しよう。
今日は人生最高の日だ!!
ね、智くんっ!♡
「…何だよその目は…」
ああ、そんな睨み顔ですら可愛いってどういうこと?
本当にこの人は地上に降り立った天使なんじゃなかろうか。
人を愛するって、すごいことだ。
今ならどんな詩でも小説でも、何なら短歌でも自叙伝でも書けそう。(?)
「幸せだなぁと思って。」
正直に口にしたら、ぽかーんと口を開けられる。
「…先生ってさぁ…」
はぁ、とため息を一つ。
「ほんっっっと単純バカだな。」
毒舌、健在!!
けどその横顔は憂いを帯びて少しぐったりして見えて、超絶魅惑的!!
ああもう、どんだけキュートなんだよっ!!(テンションうざい)
釣りの間もしゃべりたくてしゃべりたくて。
けど智くんはゆっくりじっくりするのが好きだから、我慢。
…してたら、色んな事考えてしまって。
──おいらにハマんなよ
智くんはそう言った。
恋愛する気なんて、さらさらなさそうに。
そもそも智くんて、俺のことどう思ってんだ?
あんなこと言うってことは、俺のことなんて……。
キス…はしてくれたけど
それ以上のこともたっぷりしちゃったけど
智くんには、俺だけじゃない。
…色んな奴らが、智くんを…。
そう思ったら胸の奥がぎゅうっと締め付けられた。
智くんは恋愛なんてする立場にないと思い込んでいる。
自分のことなんて好きになるわけないとすら。
それが『役割』だからって諦めて…。
…『役割』って…何なんだろう…。
「…智くん。あの…もし言うのが嫌なら大丈夫なんだけど…『役割』って、何…?」
智くんは動揺するでもなく、「あー、相葉ちゃんに聞いたんか」と言いながらルアーを選んでいる。
あんまおもれぇ話じゃないけど、と智くんが恥ずかしそうに笑って背中をいつも以上に曲げる。
「親に捨てられた…って話はしたよね?」
こくりと肯定する。
「おいらは役立たずなんだって…そう思って孤児院で過ごしてたんだけど。
なんかさ、生きてくのが嫌になって…あんじゃんそういうの、若気のイタリ?みたいなやつ(笑)
自 殺 未 遂~みたいな。
そん時さ、一緒にそこで育った奴に言われたんだ。
『人には必ず役割がある』って。」
あまりに軽く言うから聞き流してしまいそうになるけど。
それほど智くんは追い詰められてたんだ。
なのに…何で親友とやらは…。
「…それがどうして皆と…ってことになっちゃったの?」
「死 に損なって、話してたら…そいつにいきなり押し 倒されてさぁ。
めちゃくちゃビビったんだけど、これが俺の役割だ、って言われて…
あ~そっか~って。おいら役立たずじゃなくて、誰かの役に立てるじゃんって思って。」
ズキン、胸の奥が思いきり鈍い音を立てる。
役に立てるとか、そういうんじゃないのに。
智くんは…俺にとって、何もしなくてもそこにいてくれるだけで……。
「結構…需要?っちゅーの?はあって。
施設出て色々一人で点々としてたんだけどそういうのって口コミみたいな感じで広がってったから相手は途絶えなくてさ。
なんかハマりすぎちゃって一緒に住めっておいらん家から無理矢理引っ張ってった奴もいたくらい(笑)」
口コミで広がる、とか。
俺には想像もつかない世界だ。
だけど出会いがこんな形じゃなかったら。
もしも街で智くんと出会って、そういう関係になってたとしたら。
俺も、智くんを閉じ込めてでも他の人に取られたくないと
身勝手に思っていたのかもしれない…。
「…で、そいつとはどうしたの?」
「変な奴だったけど優しかったからしばらくいた。
ほんでもなんか、どんどん相手が深みにハマってる気がしたから逃げ出しちゃった。」
「…そう。」
もやもやもやもや。
ああ、これか。
相葉くんにも感じてた正体は、いわゆる嫉妬ってやつか。
なるほど、言いえて妙だが狂うという言葉がつくのもわかる気がする。
過去のことに、ましてや相手の感情は恋愛でもないのにこんな感情を抱く俺はおかしいのだろうか。
「相葉ちゃんもだけど、おいらとヤ んの本当に好きみたい。
んふふ、他の奴じゃダメなんだって。ほねぬきっちゅーやつ?
ね、言ったでしょ。おいらのことハマったとしても、それは恋愛じゃないんだよ。」
それは。
(勿論技術面もすごい…けど)多分、そういう意味じゃなくて。
そいつも相葉くんも、
あなたのことが──。
…ていうか…
「…俺…も…?」
「へ?」
「俺も…あなたとそういうこと目的なだけだと思ってる…?他の奴らと…その親友と、同じだって…。」
じっと真剣な目を向ける。
智くんは一瞬目を泳がせ、何かを言おうと口を小さく開け……
「おーちゃん!おーちゃんおーちゃんおーちゃん!!!こんなとこにいたの~!?タイヘン!!!!」
……相葉くんの声にかき消された。
突然背後遠方から大声上げて駆けてくる高校生。
いつにも増してうるさい登場にもはや怒るとか呆れるを通り越して感心する。
すげぇな毎日毎日。
本当に元気だな思春期って。
「どしたぁ~?」
「いいから来て!今すぐ!!翔ちゃんもおいでよ!ヤバいってマジで!!」
大興奮の相葉くんが俺と智くんの腕をとり引きずっていく。
「まだ俺釣り…」
「それどころじゃないんだってば!大事件だよ!!!」
大事件って、大袈裟な。
そう思いながらも智くんが「何何~?」と乗り気なんだから言うことを聞くしかない。
さらっと釣竿を置いておくのを尻目に俺も腰を浮かす。
この島に防犯意識なんてものは存在しない。
もう慣れた。
「ほら、あの人だかり見てよ!腰抜かすよっ!!」
ろくな説明もなしに連れてこられたのは、釣り場から徒歩5分位の海水浴場になってる側の海。
いつも釣りをしてばっかりだったからこんなとこあったことすら知らなかった。
ましてや、この島にこんなに人がいることすら。
…20人程度だけど。
…遠目に見てもほぼ顔見知りだけど。
と思っていると、よく見りゃ機材やらなんやら…
「カメラ?」
「そう!撮影だって!誰だと思う?!」
鼻息荒い相葉くんがめちゃくちゃテンション高く声を上げる。
「MJだよっ!!!!!ミュージックビデオの撮影で来てるんだって!」
ドクン。
予想外の名前に心臓が飛び跳ねる。
うっ…そ、だろ…?
「えむじぇえ…?」
智くんの怪訝な声。
「ほら、おーちゃんにCD焼いてもらったじゃん!」
「あ~。そんな名前だっけな。外国人かと思ってたわ。」
「え~!おーちゃん聴いてないのっ!?日本語だったでしょ!!」
「焼けっつったから焼いただけだよ。相葉ちゃんの前で軽く流してみたけどちゃんとは聴いてないから知らない。」
相葉くんと智くんの会話はすぐ近くなのに、ぼわんと耳鳴りして聞こえづらい。
松本が、来てる?
こんな島に?
…そんな偶然、あるだろうか。
まさか俺を探しに?
いや、そんなまさか。
頭の奥がガンガン音を立てる。
何だろう、無性に嫌な予感がする──。
「あ!!マジ!?あれ、もしかして!!」
相葉くんが更に大きな声を出す。
当の本人は人ごみの奥だから見えないはずなのに。
「あの人!絶対そうだ!!二宮和也っ!!!!」
…マジ、かよ。
悪夢の根源、オールスターズ(2人)じゃねぇか。
確かに…二宮だ。
二宮は普通にシンガーソングライターとして顔出ししてるから一般人にも有名だ。
実際ゆっくり話したことはないけど、挨拶したこと位はあるし同業者の俺のことは認知しているはず。
…うわ、こっち見た。
……げっ…こっち…来た…!
「うわっ…ねぇねぇこっち来たよっ!やっば!サイン!サインもらわなきゃっ!!」
相葉くんは飛び跳ねて喜んでるけど、俺はそれどころじゃない。
元恋人(松本)を寝取った相手。仕事をとられた相手。
けど俺は別に松本を本気で好きだったわけじゃねぇし…どういうテンションで話しゃいいんだっ!?
「…久しぶり…ですね。」
二宮は近づくなり、そう呟いた。
「あ…」
俺が口を開く前に、何故か
「…カズ…。」
智くんがそう答えた。