※妄想のお話です。
「きょうはちちのひだから」
「お、おう(どうしたんだ…ドキドキ)」
「ひぃばーばかいたのよ!」
笑ったw
顎には多分周りに流されてつけた髭があったww
そして、誕生日当日。
今日は日曜日だ。
え?そっちでは日曜じゃないの?
へぇ、世界線が違うんじゃない?←
だってそうでしょ?
普通の世界に、『入れ替わり』なんておかしな案件あるはずないじゃない。
それとも…ああ、これ読んでるあなたの暦は今何年?
へぇ、こっちと違うんだね。
だから、誰が何と言おうと今日は日曜日なんだよ。←
…というわけで、日曜日。(言い訳長い)
「男2人が誕生日会……想像以上に辛い…」
「まぁまぁ、そう言うなって。」
風間が家まで車で迎えに来てくれた。
風間のくせに黒いスモークのついたワンボックスカーはだいぶ生意気だ。
ま、相葉ちゃんと3人で遊びに行く時とかアシになってくれて助かってんだけど。
「お前、松本さんと2人で過ごさなくてよかったのかよ?」
「はっ?な、な、何で松本さん?!」
どもりすぎだろ。
「別にいいけどさぁ。俺が言うのもなんだけど、もうそろそろ素直になれば?」
「はぁ?素直って何だよ!」
あれから数回2人で出掛けたらしい。
欠伸が出そうだもん、俺。展開遅すぎて。
最初の街の周りをずっとグルグルしてるようなもんじゃん、行こうよ次の街。
スライムと戦うのもそろそろ飽きたっしょ?
レベルだってさ、自然に上がってるはずじゃん。
力づくでもさっさと食っちまえばいいのに、と本気で思う。
…それが出来てりゃ俺なんか買ってなかったと思うけどね。
「んで、この馬車はどこ連れてってくれるわけ?めでたい誕生日の男2人を。」
窓の外を流れる景色は高層ビルに囲まれていて、切り取られた空は狭い。
それに、隣を走る車が近いし速い。
首都高のくねった道でのそれはちょっとしたスリルを感じる。
車なんて乗る機会がなかったから、最初はその狭さに驚いたっけ。
一番最初に乗った高速が先輩の車だったから。(そーいやどうしてんのかなあの人ら)
「それはやっぱ、思い出の地じゃない?」
思い出の地って…
「いやないわ!誕生日に職場に遊びに行くのはないだろ!!」
ぜってぇ笑われんじゃん!
風間と俺が誕生日シールつけて2人で歩いてるのとか!!←シールつける気満々
「ははは、いいから寝てなよ。昨日相葉ちゃん寝かせてくれなかったんでしょ?本番は相葉ちゃんと合流してからなんだから、今の内に寝ときなよ。」
くすくす笑われて、あまりの恥ずかしさにカァッと顔に血が集合する。
その通りだと俺の目の下のクマが肯定しているようで。
遅く帰った相葉ちゃんが、日付を変わるまで待っていてくれて…その瞬間に祝いの言葉を言ってくれた。
そしてそのまま……ごにょごにょ。
あの絶 倫バカ、精 力どうなってんだよ。
仕事で疲れてんのに…あれか、疲れ マ ラか。
俺の方が絶対人数も回数も経験値あんのに…
『隠さないで…?』
軋む 腰を 左手でそっと撫でる。
『カズのカラダは…誰よりも綺麗だよ。ほら、こんなに…。』
……記憶の中の優しい笑顔にきゅんとしたのは、胸か腰奥か……。
「…寝るっ。」
「ええ、どーぞ。」
風間がするりと右手を滑らせ、カチカチとウィンカーを出した。
本当に寝不足で…間もなく俺の意識は遠のいた。
「おーい、着いたよ。」
風間の間延びした声で起こされる。
「あ、ごめ、マジで寝て…」
た。
最後の1文字を言わずして、息を呑む。
「ここ…」
「俺らの思い出の場所は、ここもでしょ?」
風間が口角上げて笑いながら車を降りる。
それに続き外へ出る。
ざあっと風に載ってきたのは、塩気の混じった懐かしい匂い。
「…3年ぶり…。」
相葉ちゃんと風間と…ひと夏、過ごした街。
「色々回らない?折角だし、歩こうよ。相葉ちゃんの仕事終わるまで結構時間あるしさ。」
風間が眩しそうに片手を陽に翳す。
梅雨とは思えない、眩しい日差しの降り注ぐ日。
潮の匂い。
揺れる草の擦れた音。
海のさざなみ。
小鳥のさえずり。
揃ったカエルの鳴く声。
3年前に来た時はそんな余裕なかったけど。
どれをとっても都会とは違うそれに心の奥がじんとする。
ノスタルジーに浸る程『俺』はここへ来ていない。
それでもどこか泣きそうになる感情と記憶が、あれは現実だったと教えてくれる。
言うなれば体験をしていないけど、経験を手に入れたようなもので。
「ねぇ、車停めといてちょっと歩かない?折角天気いいしさ。」
朝降ったのか、地面は少し濡れているけど、風は穏やかで心地いい。
俺らは何かを噛み締めるよう、ゆっくりと歩きだした。
「まずは…やっぱここ?」
風間に連れられてきたのは智の家。
櫻井さんと一緒に来た時、この見た目にぞっとしたっけ。
その時よりまた草が伸びてるけど、一応住めない程ではない。
雨戸も開いているし、原さんが手入れしてくれてるんだろう。
ここで短い間、俺はじいちゃんと暮らした。
…元気かな。
相葉ちゃん曰く、フランスで再婚したらしいけど。
俺や智より先に結婚とか何なのあの人。
意味わかんないよ。
でも…
元気なのであれば何だっていい。
いつか、金が貯まったら会いに行ってもいいだろうか。
向こうからしたら誰だお前って感じだと思うけど。
俺にとっちゃ勝手に家族みたいなもんだから。
「じゃ~次は~…オソイヨかな?」
風間は何が楽しいのかにこにこと前を歩く。
智の家と学校の間位にある細井商店。
そうだ、相葉ちゃんに海老シュー買ってってやろうかな。
俺はまぁ、一口もらえればいいかな。
きっと喜ぶぞ…とワクワクしていたら。
「…閉店…?」
閉められたシャッター前に貼られた張り紙には、
細井のじーちゃんが身体を壊し、それをきっかけに店を閉じてしまった旨が書かれている。
「あ、知らなかったんだ。てことは相葉ちゃんも知らないのかな。ちょうど一年前に腰やって倒れたんだよ。でも、会いに行ったら元気そうだったよ。『いいきっかけになった』って笑ってた位。」
風間は少し複雑そうに目を細める。
そもそも海老シューは製造すら中止されてしまったらしい。
そうなってしまえばまた食いたくなるのが天邪鬼。
…そっか。
なくなったんだ…この世のどこにも……。
なぁ智
知ってるか?
あの夕焼け色の怪しいクリームは、もう、無いんだってよ。
……時代は変わってくよ。
変わらないこともあるけど、圧倒的に変わってくものの方が多いんだ。
そんな中で、変わらない笑顔に変わらない想いを抱けることは幸せだよな。
…お前にも。
ずっと、想ってるよ。
幸せになって欲しい、って。
笑顔でいて欲しい…って。
あの日から
ずっと。