「ただいまっ」
「わー翔ちゃんはやーい!」
「しょぉくん、はやーい!」
「やればできるじゃないですか。」
いや、ほんと。
自分でもビックリした。
仕事が捗る捗る。
これまで決して手を抜いていた訳では無い。
むしろがむしゃらに取り組んでいた。
幼稚園へ早く迎えに行かなくてはと意気込んで、昼休みも潰すくらい仕事してたのに…
仕事量が変わってないのに、餃子が待ってる!と思ったら面白いくらい仕事が片付いて、18時半に帰宅。
別に特段好きな好物って訳でもないのに。
「んふふ、おかえりなさい!もう餃子焼き上がりますよ!…預かりますか?」
また手を広げて大野さんが首を傾げる。
ジャケットを預けたい気持ちをぐっと我慢して、「ありがとうございます、結構です」と笑う。
なんか、超えちゃいけないラインな気がして。
このジャケットを渡すことで、俺の何かが変わりそう…的な。
「じゃぁ、着替えてきてくださいね!」
「はい!」
「「「はやくー!」」」
ニラのいい匂いがぐうっと腹を鳴らす。
…鳴らした、はずだったのに。
「…ぐっ…げほっげほっ…何だこれ?!」
「くふふふ!それは俺の特製チョコレート ツナ メロン餃子!」
「…止めたんですけど…(笑)」
そっとタイミングよく出された水で何とかその不協和音している物体を流し込む。(出さなかった俺、偉くね?)
ニラの匂いで腹空かせてんのに!
なんでそんなもん食わすんだよ!!
チョコレートとツナとメロンて一体心にどういう闇を抱えた人間がぶっこむ組み合わせなんだよ!?!
「しょぉくん、ボクもつくったからたべて!」
「…潤さん、こちらは何が中に…」
「えっとねえー…なんだっけ?」
や、闇鍋感ハンパねぇ………。
「潤くんのはエビとハムとチーズですよ、大丈夫です(笑)」
大野さんがクスクス笑ってこっそり教えてくれる。
その言葉に安心して口に放り込むと、確かにそれで。
「美味い!」
「やったあ!」
嬉しそうな潤の笑顔の奥から、ぬっと出てきたのは双子の兄の黒い笑み。
「じゃぁ翔ちゃん、ボクのも食べてくれるよね?♡」
和が皿ごと手渡したものは………
何で餃子の皮越しなのに、
青と赤と緑と黄と紫が同居してるんだ…?
「これ…は…」
「ナイショ♡」
ちらりと大野さんを見ると、サッと目を逸らされる。
えっ、何それ。
何でそんな青ざめてるの。
ねぇ。大野さん。
さっきみたいに教えてよ。ねぇってば。
「雅紀と潤のがたべれて、ボクのがたべれないわけないよねぇ?しょーーぉちゃん?」
どこのアルハラ上司だよ!!!
ムリヤリ、ギギギ…と口を開けられる。
まて、まて、まて。
匂い!!!
既に!!!死の香りがするんですけど!!!!!
「逝ってらっしゃ~い」
和の言葉は、脳内で嫌な漢字に変換された。
「…で?」
「え?」
「餃子はどうだったんです?」
「あ、えーと…絶妙なバランスで美味いのか不味いのか分かりませんでした。結局何が入ってたのかいくら聞いても教えてくれなくて。」
「なんすかそれ(笑)」
先生は目に皺を寄せ、拳を口に持ってきてくつくつ笑う。
翼に言われた通り、病院を変えに来たわけではない。
しかし…毎晩大野さんで、という意図がわからなかったから、次の予約を待たず仕事終わりに寄ったのだ。
金曜定時上がりなんて最高の飲みの機会だったわけで、断った翼には嫌な目で見られたけど。
近況を報告しろと言われ根掘り葉掘り聞かれた結果、先日の餃子パーティの様子まで説明させられた。
これ何か関係あんのか?
「先生~戻りましたよ~…」
ガチャッと突然ドアが開き、大きなバックパックを背負った男が入ってくる。
診察室って突然の来訪者とか来るもん?!
…などという無駄なツッコミはしない。
何故なら無駄だからだ。
この病院に限って患者に人権は存在しない。
「おせぇよバカ。見つけたか?」
「は?あのですねぇ、言っておきますが、この謎のキノコとるために僕死にかけたんですよ?崖から落ちそうになったり、マムシとか毒蛇とか…1週間もかかったって言うのに…」
…ぶつぶつ言ってっけど、どこに行ってたの、この人。
そして多分それ新薬の話ですよね?
その謎のキノコで作った薬を俺に渡そうとしてます?
「はいはい、何でもいいからよこせ。…うん、確かにこれで合ってる。これで薬作れるわ。おら、そこ邪魔。」
「あのですねぇ渡海先生?!僕だってこんなこと言いたくはありませんけど、あなたのやり方は多少、いや確実に普通ではないですからね?!被検体に訴えられても知りませんよ?!」
「そんな知恵ねぇから大丈夫だろ。」
待て待て。
訴えるとか何の話だよ。
俺?
被検体って俺の話??
「あれ、患者さんいらっしゃったんですね?失礼しました。高階と申します。」
ぺこりと頭を下げる高階先生はどう見ても真面目でまともな人なのに。
何故こんな輩(←)の下で働いているんだろう。
「櫻井さん…ああ、この患者の名前だけど、囲ってる未成年の男見てフル 勃 起したんだってよ。」
「ちょ、渡海先生っ!」
言い方!!
流れとか色々すっ飛ばしすぎ!!!
語弊がひどすぎる!!!!!!
「お、そうなんですか!おめでとうございます!」
おめでたくはないだろう!!
すんなり受け入れてくれるな頼むから!!!
「つーわけで、早速だけど仕事しろ。櫻井さんにアレやってやれ。」
あ、カウンセリング?
精神的な面を考慮してカウンセリングを受けることもある。
以前のカウンセラーの方じゃやり方がぬるいとか言って渡海先生本人がしてくれてたけど、任せるということは高階先生は優秀なんだろう。
「えっ!僕帰ったばかりなんですけど…」
「文句言うな。」
はぁ、と諦めるような大きな溜息で、なるほど、いつもこんな感じなんだろうと容易に推測がつく。
ブラック企業もいいとこだ。
「ハイハイわかりました。えーと…櫻井さん、立ってください。」
「あ、ハイ。」
カウンセリング室に移動しようとすると、がしっと肩を掴まれる。
「ここで立っててくださいね?あ、そこの手摺掴んでいいですから。」
……ん?
何で??
「いや………って、さっきから何してるんですか?」
俺の前で膝をついた高階先生に、カチャカチャとベルトを外される。
え、待って何?診察?
診察前には触られるからちゃんと拭いたりするけど、心の準備ってもんが要りますよ流石に??
「何って、触診です。」
「…しょく……」
「ちゃんと復活したかどうか。」
ふぅ、と息を着いた高階先生が、ぱくりと俺のを咥 えた。
「っっっっっ!?!!??!」
突然のことに言葉にならない。
なに、なに、なに?!?
渡海先生を見るとマジマジと観察しながらメモをとっている。
興味なさげな目で。
高階先生も俺の反応を観察しながらしゃ ぶってくるし!!
俺?!
俺がおかしいの?!?
気持ちいいとかそういうの全く!
感覚がさぁ!!!ないんですけど!!!!
この特殊過ぎる状況のせいで!!!!!
「…先生、反応無しで。」
どれくらいの時間だったんだろう。
戸惑いまくっていた俺のを一通り舐め終えた高階先生が、ようやく顔を上げる。
「りょーかーい。」
カルテに何かを書き込む渡海先生と、口元拭いてベルトを直す高階先生と、呆然とする俺。
「あの…今の…?」
「は?わかんなかった?テストですよ。男専門になったのかと思って。」
「ち、違うに決まってんでしょ!!だから困ってこうやって相談しにきてたんですよっ!!」
男とどうこうなんて思ったこともない!!
つーか、そうなりたくはない!!!
「なら、簡単でしょうが。そんなこともわかんねぇのかよ、いい学校出てんのに世話ねぇな。」
渡海先生が頬杖をつき、足を組んでニヤリと口角を上げる。
「アンタはね、その家政夫に惚れてんだよ。」