「この資料、まとめといてくれる?」
「はい、かしこまりました櫻井主任…!」
「はぁー♡今日もかっこいい♡アルファオーラ浴びた~♡」
「櫻井さんと番になれるなら、私オメガでもよかったかも…」
「バカ、誰に噛まれるかもわかんないのよ?ベータが一番楽だって。普通でいいじゃん。」
「まぁ確かに…まず普通の会社で働くことも難しいもんね。」
わかりやすい世界だ、と思う。
それがいかに人権などというものを無視していようとも。
性別の他に、もう三種類。
α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)。
人は生まれつき階級が分かれている。
ひと握りの『エリート』に割り当てられたアルファ。
約70%を占める所謂『普通』のベータ。
そしてアルファよりその数は少なく、アルファと番(つがい)になる為『だけ』の存在、オメガ。
血液型を調べると同様、肌の下を流れる血液をとり、自分がどこに属するのか確認する。
それは親によってある程度予想の出来るものだが、例外も多々あり、小学6年生の時に必ず検査をする。
実際その個体差が出始めるのは、平均16歳頃。
つまりは中~高生の時に覚醒し始める。
覚醒についてはオメガが一番わかりやすい。
3ヶ月に一度、一週間程度訪れる発情期…通称『ヒート』と呼ばれるその時になると、
フェロモンを身体から出し、アルファを誘う。
これを制御する薬も政府から出ている。
日常生活を送る上で、オメガであることを隠したい人間はたくさんいるのだ。
ヒートは個体差があり、フェロモンが強ければベータさえも誘惑する。
フェロモンが強ければ強いほど周りを狂わせ…そしてその快 楽を増幅させる。
男のオメガも、受け入れる側だ。
男のオメガは直腸の入口に子宮が存在する。
そしてヒートの時にはそこから粘膜が発生し、肛門 内に挿 れやすい状況になる。
そして…子宮があるということは、妊娠もするということだ。
そう、オメガは種の存続が一番の役割。
ヒート期間の一週間は他のことが手につかなくなる位、発情する。
しかし、ヒートの匂いを嗅いだアルファはオメガのそれを凌ぎ、我を忘れ凶暴性が出る程オメガを求める。
さしずめ、獣のように。
本能という言葉で片付けてしまっていいのかはさておき…それでもそう表現する他にない。
それ程にオメガの匂いはアルファを狂わせてしまうのだ。
そしてその時のセッ クスはどの組み合わせよりも良いとされている。
アルファは、オメガの項(うなじ)に噛み付くことで番(つがい)の契約が出来る。
簡単に言うと、『唾をつけた』状態のこと。
恋人だの結婚だの、そういうのは一切関係ない。
相手にどんな想い人や法律上のパートナーが居ようと、それは簡単に覆る。
オメガにはそれを拒否する権利はないのだ。
アルファがオメガと番を結べば、ヒートの匂いは番にしかわからなくなる。
つまり、誰彼構わず引き寄せることをしなくても済むのだ。
だから普通のオメガは、普段はオメガであることを隠しているものの、男女問わず優秀なアルファを探し求めている。
アルファは基本エリートだから暮らしにも困らないし、番契約を結ぶことでいつ誰に襲われるかの恐怖からも回避できるからだ。
しかし番契約をすると、オメガは他の奴とセッ クス出来なくなる。
具体的には、吐き気がしたり、身体が拒否反応を起こす。
アルファはそれを一方的に解除することも出来るが、そうした場合オメガは精神的ダメージが恐ろしく、一生誰とも番を結ぶことが出来なくなる。
つまり…一生、全員に撒き散らすヒートと付き合っていかないとならない。
だからオメガはアルファを求めるのだ。
本能的に。
この世で、アルファであることが一番のステータスだ。
本能的に従わざるを得ない優劣。
わかりやすいし、簡単だ。
仕事も、アルファであれば上層部が約束されたようなもの。
ごく稀にオメガで上まで行く人もいるが…
血のにじむ様な努力と、必死こいてヒートを隠す生活の上に成り立つ例外中の例外だ。
見た目でハッキリとした区別がある訳では無い。
(ただ、アルファには外見の整った人間が多いとされている。)
だから実情どれくらいの人間がオメガを隠して会社にいるのかはわからないが、政府の出しているデータでは10%を切りかけている程度しか存在しない。
しかしひとたびそのフェロモンが振り撒かれれば、必ず周りのアルファは気付く。
発情抑制剤を忘れたらそれでアウトだ。
誰かに襲われ、時には数人から強 姦され、好奇の目で見られ続ける。
だからオメガはすぐに辞めたり自殺してしまう。
それを見越して、オメガは最初からアンダーグラウンドな仕事に就く人間が多い。
長々説明したが、俺はアルファだ。
オメガの女も男も、自動的に俺に群がる。
目の前でヒートしてりゃどうしても我慢出来なくて抱 くけど、中には出さないしオメガとわかればなるべく避けるようにしている。
クソばっかりだ。
オメガなんて。
妊娠するしか脳がないから、アルファに抱 かれることばかり考えている。
項に噛み付いてくれと俺を咥 えこみ、腰 をくねらせるような低俗な人種だ。
俺はアルファと結婚する。
そう決めていた。
両親がそうであったように、アルファ同士での結婚は難しいけれど。
恋愛結婚を貫き通した両親は、少なからず俺の将来展望の礎になった。
オメガなんかに誘惑されているアルファなんて虫唾が走る。
俺は本能なんてものに負けない。
アルファと結婚してみせる。
絶対に。