蠢くカオスの中で18 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。














【Side 智】


「…翔くん、恥ずいって。下ろしてよ。」


「………。」


…めっちゃ怒ってる。


お姫様抱っこされてエレベーター乗るとか、誰かに見つかったら死ぬ程恥ずかしいやつ。


しかも手が結ばれたまま服かけられてるから動けない。



何か…未だに状況が理解出来てない。


潤が何をしたかったのか。


まー君の嘘って何なのか。


そして何故翔くんが怒ってんのか。


同じようなこと、俺にずっとしてたくせに。


でも…あんな無理矢理は一度も無かった、と思う。


選択肢を与えない聞き方ばっかだったけど、今回のように痛みを感じたことはなかった。


潤の目は、憎しみとか怒りとか…すごく怖い感情で。


じゃぁ、翔くんの目はって考えると…



どこか、寂しそうで。



だからかな。


きっと必死になれば逃げられるのに、結局言うことを聞いてしまうのは。



そんなことを考えていると、誰にも会わずに翔くんの部屋についた。


膝で俺の身体を支え片手でドアを開ける。



変なの。


自分の家より、こっちの部屋のが今は落ち着く。


潤には何をされるかわからない不安があったけど


翔くんには、もう慣れてしまった。


悪い意味で、だけど。



ストンと降ろされたのは昨日括り付けられたベッドだ。


それでも恐怖がないのは、翔くんが腕の自由を奪っていたネクタイを取り、スっと離れてコーヒーを持ってきてくれたから。


無言で差し出され、それを受け取る。


いつの間にか俺用に買い足された、夜の闇のような、濃い紺色のマグカップだ。


まるで俺がいるこの状況のよう。


もがいても誰にも見つからない。


光なんて、ない。


朝なんて…絶対に来ない。


そんな…暗い、青。



フーフーと冷ましてマグカップに口をつけると、苦くはなく蜂蜜が入っていることに気付く。


…これも優しさ、のつもりかよ?



「…俺を傷付けるようなら許さないって…自分のことは棚上げなわけ?」


さっきから気になってたことを聞く。


あのセリフ、何なんだよ。


「…そうだよ。悪い?」


自分の分は用意しなかったらしく、翔くんは少し離れてベッドに座った。


少しだけ翔くんのいる右側に沈むスプリング。



「智を傷付けていいのは俺だけ。智に触っていいのも、泣かせていいのも、全部俺だけなんだよ。」



翔くんは俺の方を見ず、まっすぐ正面を向いて言った。


「…んだよ、それ。」


めちゃくちゃだろ。


と付け足してまたコーヒーに口をつける。


「そうだよ。めちゃくちゃだよ。俺はワガママなんだよ。頭もおかしい。だから…頼むから他の奴に触らせんな。もう…二度と俺以外と二人きりになんな。」


いつもの強いバカにしたような口調じゃなくて、どこか切ない悲痛な声で呟く翔くんは…


何だか小さい子のようで。


「…そんなん、無理だろ。普通に。」


生活してたら誰かしらに触れる。


潤とだって。


家族なんだから…



そこまで考えて、翔くんは家族と触れ合うどころか会ってもいないことに気付く。


翔くんは、誰とも触れ合わずに来たのかな。


社長夫人も…小さい頃から翔くんを敬遠してた。


大事にしてるように見えて、全然翔くんのことを見てない印象。



俺ら友達が…


いや、俺が。


もっと、ちゃんと翔くんの心の隙間を埋めてあげてれば。


翔くんはこんな風に、誰かを縛りつけようとすることもなかったのかな。


自分がおかしいと気付きながら、それでもそれをしてしまうのってどれだけ辛いことなんだろう。


俺には想像もつかないけど。



ブー、ブーとバイブ音。


ポケットから携帯を出して表示を見ると、和からで。


「…ごちそうさま。」


残りを一気に飲み干し、立ち上がる。


「…どこ行くんだよ?」


「和のとこ。帰ったら行くって約束してたんだよ。」


マグカップをテーブルに持って行こうとしたら、



「……っ!」



ゴトン。


空のマグカップが落ちた。


後ろから急に抱きしめられたからだ。


「な、何してん…」


「…くな…。」


翔くんが小さく呟く。




「和のとこなんて、行くなっ……!」



ポケットに突っ込んだ携帯が、またブーブーと鳴り始める。


マグカップの深い青が、俺の足元で小さく揺れていた。



──ああ、これ、海なんだ。



その時、初めてその深い青は海の色なんだと思った。