「えっ…なん…?!」
「元気、お届けでーす!」
ニコニコと宅配便の真似みたいにしてる、相葉雅紀が立っているわけで。
慌てて腕を引き入れ、ドアを閉める。
玄関で向かい合い、まじまじと見つめる。
「おま、何で…?」
「あぁ、エントランスはねー、たまたま入る人居たからさらっと住人のふりして入っちゃった♪」
「いや、そうじゃなくて…何でここに?」
「ニノが泣いてる気がして。」
バカじゃないのこの人。
俺が泣くわけないでしょう。
大体何で泣くんだよ。
「ほら、やっぱり…」
そう言って俺の目尻を優しくすくう相葉さんの指。
涙は出てないはず。
でも相葉さんはやっぱりと言う。
触れられた場所が妙に温かい。
相葉さんには何が見えてるの?
俺にはわからない、俺の本当の気持ち?
相葉さんが言うんだからきっとそうなんだろう。
よくわからないままぎゅっと抱き締められ、背中をポンポンされる。
背中越しの相葉さんの手は、見えなくても、服越しでも、間違いなく相葉さんの手だ。
そんな当たり前のことに胸がきゅっとなる。
外気で若干冷えてるTシャツに顔が潰される。
何となくそれが心地よくて。
「苦しいよ、何ですかいきなり。」
されるがままになっている言い訳を必死に探してる、相葉さんよりも馬鹿な俺。
「俺ね」
相葉さんが優しく話し出す。
「失うのが怖かったんだ。」
相変わらず脈絡もなければ主語もない話。
つっこみたい気持ちを抑え、続きを頑張って聞く。
「だったら種は蒔かないでいいって思ってたの。太陽はね、見ない方がいいって。」
「はぁ…??」
「でも違ったんだ。種はね、もう蒔かれてるの。育ってるの。そんでね、もう知ってたんだよ。太陽の存在。」
「あの…何の話をさっきから…。」
とりあえず軽く聞いてみる。
「でね?俺は向日葵好きなんだけどね?」
案の定無視。
からの謎の告白。
向日葵好き。
マジで誰か、こいつに日本語教えてくれよ…。
「向日葵って、太陽に向かって一生懸命伸びてくの、知ってた?」
「あー、まぁ…。」
「俺はね、そうなりたいなって思ったんだ。太陽に少しでも届くように、ずっと手を伸ばして、背伸びしてるような向日葵に。」
…あなたはどちらかと言うと太陽みたいな人なんですけどね。
とは恥ずかしいから言わないけど。
そっと相葉さんを見上げると、どこか眩しそうに自分の手を天井にかざしている。
多分、相葉さんには眩しい太陽が見えていて、もう少しで掴めそうな位置にいるんだろう。
「あのね、1人にならないって教えてもらったんだよ。追いかければいいんだもん。
踏まれても、次また性懲りも無く追っかけてくよ。だって太陽だけを見つめてるんだから。」
1人?踏まれる??教えてもらった??
不意に架空の太陽から俺に視線が移る。
バッチリ視線が合ってしまい、にっこり微笑まれていたたまれなくなってまたシャツに顔を押し付けた。
上に向かって伸びていた手が俺の頭を撫でる。
「だからね、ニノ。大好き。付き合って下さい。」
「…………………は?」
俺はこの時どんな顔をしてたんだろう。
バカにはバカの言語があるらしい。
俺はこの日初めてそれを知った。