【Side 大野】
「…おじゃま、しまぁす…」
すっげぇ小さい声になっちゃった。
案の定翔くんに「声ちっさ!!」って笑われる。
玄関に入った途端に何かいい匂いしたけど、これからだな。
なんていうんだっけこれ、でぃ…でぃふー?
…忘れた。
予想はしてたけど、オシャレすぎて…なんつーか…引く。
『妄想を現実にしてみる?』
なんてさ、結構冗談のつもりだったんだけど。
まさかの本気にしちゃって、翔くんヤ る気満々で。
期待してなかったわけじゃないけど…
でもそんなん、イキナリすぎねぇか?
悶々と悩みながら通されたリビングは、一言で言うとシック。
茶色や黒で統一されてる感じ。
自分の部屋との違いに情けなくなる。
うちなんて家具、統一性なくてぐっちゃぐっちゃ…。
てかまた違う匂いだし。玄関と。
あ、俺のあげたクッションある。
棚にはプレゼントしたフィギュアまで!
思わずニヤけた。
「あぁ…大事にしてるよ。」
俺の視線に気づいた翔くんが笑う。
翔くんはカウンターキッチンで何かカチャカチャしてる。
「嬉しい。ありがとう。」
「こちらこそ!あ、ソファ座ってて。」
「へ~い。」
ソファは革のいいやつ。
翔くんって選ぶものはオシャレなんだよなぁ。
服は絶望的に似合ってねぇけど。
勝手にテレビのスイッチを入れる。
流れてきたのは芸人がMCのバラエティのトーク番組。
「ビールでいい?ごめん、急で何も用意してないけど」
「あ、うん、全然」
軽く乾杯して、お互い喉に流し込む。
流れる沈黙。
テレビから流れる笑い声がいやに耳に響く。
……な、なんか緊張してきた……。
「智くん。」
ギッ…とソファが軋む。
翔くんが片手に体重を載せ、近づいてきたからだ。
「…な、何?」
声が裏返ってしまった。
んん、っと咳払いする。
「妄想…現実にしていいの?」
やばい。目がガチだ。
…てことは、俺が受け入れる側ってことだよな?
ニノとの時は俺が上だったんだけど…
流石に翔くんとは体格的に……
「キスして、いい?」
頬に手を添えられる。
だから待ってくれ、どっちが上なんだよっ?!
俺だってなぁ、流石にそれは覚悟っつーもんが…!
無言をイエスと捉えたらしき翔くんの顔が近づく。
あー…やっぱめっちゃタイプだわこの顔…。
じゃなくてぇ~!!
その時、突然部屋に響いたのは。
『ニノがナノで受けて立つ!』
気の抜けたニノのCMだった。
「あ!!」
「えっ?!」
超至近距離での俺の叫び声に飛び上がる翔くん。
「俺…写メ撮りたい!」
「はぁ?!今?!」
「うん!今すぐ!!」
全然納得してくれなかったけど、「付き合った記念に」と言うとめっちゃ笑顔になった。
単純なヤツでよかった~。
…逃げれたわけじゃねーけどぉ…。