「あ、俺も言いたいことあったんだ。」
智くんがもぐもぐしながら言い出した。
「ん?なになに?あ、このたこわさ美味いよ!」
「あ、さんきゅ。…ほんとだ美味い。」
ノックが鳴り、刺身が運ばれてきた。
「あざーっす!…でどうしたの?」
扉がしまってからまた話を振る。
「刺身うまそ!貝は全部翔くんにあげるよ、貝担当だしね?」
「ふはは!ありがとうございます!」
「んふふ。でね、俺ね、翔くん好きなんだよね」
「ふんふん。お、この赤貝…ん?え?」
「俺はマグロ食おーっと。…んま!あ、因みにガチのやつね。」
「いやいやいやいや、マグロは置いといて、ちょっと待って」
「置いとけねーよ食ってるもん(笑)でね、引くなら引くでいいんだけどさ、まぁ仕事仲間としての態度だけは変わらないで欲しいんだよね。」
「いや、だから、ちょっと、まっ、いや、え?」
「なら言うなって感じだと思うけど、どうしても言いたかったの。気持ち悪いとは思うけどさ、仕事だしさ、悪いけど普通に接してくれる?」
「ね、智く…」
「大丈夫だよ、流れがあったとしてもちゅーとかしないから。気持ち悪いっしょ?(笑)そこは安心して?」
「だから、智くん!!待って!!」
思いの外大きな声が出る。
箸をコトンと置く智くん。
「…何?」
「まって…俺、何も言ってないよ?」
「聞く気もないよ。答えなんてわかってる。」
にっこり笑われて、心臓がぎゅうっと苦しくなる。
告白されたはずなのに、完全なる拒絶。
頭が真っ白になってる場合じゃない。
…多分、夢でも、ない。
「そんな…っ笑ってんなよ…!俺はっ…!」
「わかってるよ。翔くんは俺のこと大事に思ってくれてる。でしょ?でも、そういう目では見れない。それが正解だとおも」
「ふざっけんなよ!!!!」
気付いたらテーブルを思い切り叩き、立ち上がっていた。
皿がカラカラと音を立て、智くんは目をぱちくりさせて俺を見上げている。
店員さんの足音が聞こえて「お客様、いかがなさいました?」と聞かれ、平謝りしてまた座り直した。
その間も智くんは表情を変えず俺を見ている。
店員さんの気配が去った後俺は静かに口を開いた。
「正解…だって?そんな目で見れないのが?笑わせんなよ。何年片思いしてると思ってんだよ。」
智くんは全く理解出来ていないようで、怪訝な顔で俺の言葉を待っている。
「どんな想いで、平静を装って今まで接してきたと思ってる?」
「…何の話?」
まだわかっていない顔。
何でわかんねぇんだよ。
何で伝わらねぇんだよ。
「だからっ…、俺は、ずっと…!ずーーーーっと智くんのことやらしい目で見てたんだよっ…!!」
言った途端恥ずかしくて目を逸らす。
でも智くんは何も言ってくれない。
いたたまれなくなってそっと智くんを見ると、きょとんとした顔のまま固まっている。
「あの……さとしく…何か…その…」
「…ああ、びっくりして。そう…なんだ。」
「う、うん…。」
再び流れる沈黙。
何か…あれ?間違えた?違った??
思ってた展開と違うんですけどぉーーー!
暫くして沈黙を破ったのは、上目遣いの智くんだった。
「翔くん…俺のことやらしい目で見てたんだ…」
「えっ…あ、いや、その、言い方ミスった、っていうか、その、違くてさ、
…いや、違くない!ごめん!見てた!!妄想で何度も何度も抱 いたしそれで数え切れない程ヌ いたよ!!」
…な、何を言った俺は?!?!!?
ダメだーーー終わったーーー!!
両想いだと思ったのにこれはダメだろーーー俺ーーー!!
「…ぶっ!!!」
吹き出す智くん。
え?何?この展開何なの??
つられて苦笑いしたけど全くわからない。
どういう感情なわけ?!ねぇ智くん!!
「ふはっ…あははははっ!もう!やめてくれ!腹痛い!!マジで!!翔くん…はははは!!」
マジ笑いだ。
え、何の笑い?!どういうこと?!
引かれるところじゃないの?
いや引いてるから逆に笑ってんの?
「もー…涙出たわー…」
綺麗な指が目尻の涙を拭う。
「あの…大野さん?」
恐る恐る尋ねると、テーブルに肘をつき、顎の前で指を組んで上目遣いで俺を見てきた。
「んふふ。じゃぁ…今日、妄想を、現実にしてみる?」
小首を傾げて尋ねる、妄想以上の妖艶なその表情は、言うまでもなく俺の息子に直撃して。
何かを察した智くんが身を乗り出して机の下のソレを確認し、
「はええよ!!」
とまた爆笑された。