この、藤田男爵の平安前期の經箱は
中央公論社《日本の漆芸1~蒔絵1》(昭和53年発行)に収載されています。
その解説によると
ハガキに写るこの部分は、法華経の
「提婆達多品第十二/だいばだつたほん」
釈迦が仙人の阿私仙に仕えて精勤に励み、成仏し得たという説話だそうです。
この山の中に見える人物は、精勤に励むお釈迦様でしょうか。
この箱が藤田男爵のご所蔵になったいきさつを
松田権六さん (漆芸で最初に人間国宝となられた方)が
《日本の漆芸》の冊子にお書きになっていて
それを読んだ時、私は色んな部分で胸に来るものがありました。
大正の初めの頃
廃寺となった中国地方のあるお寺が、
売り立て(オークション)を行い
ある骨董商の老人が本尊を落札した。
その鑑定をしてもらうために、はるばる東京の帝室博物館を訪れた。
老人が大枚をはたいたその仏像は
その大枚に見合う品物ではないと、やんわりと美術課長さんは告げた。
落胆した老人が、入れてきた箱に仏像を戻す時
美術課長さんは箱に目をとめた。
聞けば
「お寺の境内の草の中に転がっていて
『仏像が傷まないようにもらっていく』
と言っても誰もいなくて返事がないから仏像を入れるためにもらってきた」
との事。
美術課長さんは、それがかつて見たことのない名品で、帝室博物館でも2~3年分の購入予算でないと買えない素晴らしい品物だと、ありのままに老人に伝えた。
すると老人は、その箱を
「買ってくれる人を紹介していただけるか」
と切り出したんだそうです。
始めに紹介した方は、
5万円(この冊子が書かれた昭和53年当時で1億数千万円)の値をつけられた。
老人は売らない。
次に美術課長が紹介した方は15万円の値をつけた。
老人は売らない。
欲の皮は果てし無く伸びたのですね。
美術課長さんは呆れ果てながらも、
「模造品を作る間、博物館に貸す」
という条件で、藤田男爵を紹介したのだそうです。
24万円(昭和53年当時のおよそ7億円)でお買いになったそうです。
お話はこれだけでは終わりません。
男爵はこの老骨董商に24万円の小切手を書いて渡したのですが
老人は小切手を知らず
「なんとしても現金で欲しい」と。
一万円札も、千円札もない時代です。
当時最も高額な紙幣の百円札だけでは用意できず
硬貨も含めた、大変な大きさの金包み!
老人は担いで、近くの旅館に帰ったそうです。
翌朝、寝床の中で冷たくなっていたのだとか。
「君、欲を出しすぎるとこういうことになるんだね。仏功徳というんだろうか。」
帝室博物館の美術課長さんはしみじみとこう言ったのだった。
と、松田権六さんはまとめています。
少し前に、NHKの「プロフェッショナル」という番組で、
クリスティーズで日本の美術館依頼の中国の素晴らしい品物がオークションにかけられ
予想を上回る高値で落札された事が放映されたのをご覧になられた方も多いと思います。
あれは藤田美術館さんが、
貴重なご所蔵品のために建て替えを余儀なく
苦渋の選択をなさったのだそうです。
2020年に新しい美術館ができる予定だそうです。
楽しみですね。
骨董水妖
白井澄子
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