個と全体のエンドレスワールド -4ページ目

真珠の名を持つ女

時間を有限と捉え 暦と共に去り行く者

全てのしがらみから逃れ 心向くままに留まる者

 

制限のゲームも無限の創作も

どちらを楽しむもそれぞれに自由だ

 

僕は後者の魅力に取り憑かれ 

もはや生涯においてこの楽しみから逃れられることはない

 

2015年が終わろうとしていた

 

 

2015年 12月下旬 San cristóbal de las casas,México

 

普段から洗練されているこの街はメキシコ中で語り草に違いない。

年末になると実に多くの人々が繁華街を闊歩する。

 

「この街に住む気持ちわかります」

暦と共に過ぎ去る旅人たちにも僕らに共感する者は多いのだ。

 

僕はグアテマラに出稼ぎに行く友人宅を一月借り受けて、中心地まで徒歩15分の郊外に住んでいた。

 

ある昼下がりにWIFIを拾うために歩いており、綺麗な中庭に惹かれてあるカフェに入った。

しばらくすると知っているメキシコ人女性が入って来た。

 

彼女を最初に見たのは8ヶ月前にバーでライブを見た時だった。

KolabalXXX(コラバル・トリプルエキス)というこの街で人気のあるバンドで彼女はウッドベースを弾いていた。

 

滑るような長い黒髪を腰まで伸ばし、大きな瞳とフリーダ・カーロを思わせる意思の強そうな眉、

スッと通った鼻にシャープな顎、スレンダーで身長はやや高い。

名はスペイン語で”真珠”を意味する”ペルラ”といった。

 

僕は好きなバンドのメンバーに会えて嬉しくなって話かけた。

 

「他のメンバーはどうしてる? アレックスは? エステバンは?」

「アレックスとバレンティンはアメリカね。エステバンはチリに帰ったわ」

「次はいつライブやるの? 観に行くよ」

「明日レボで20時よ、歓迎するわ」

「どんな音楽?」

「ジプシージャズよ」

「ジプシージャズは大好きだ、絶対行くよ」

 

翌日僕は単身バーへ出向き、撮影も行った。

勝手に撮影・編集・アップロード、アンダーグランドで僕の営業方だ。

 

 

 

後日ペルラから連絡があった。

「明日パリアカテでライブがあるんだけど、撮影出来る?このメンバーで出来る最後のライブだから記録を残したいの」

僕は二つ返事で了承した。

 

パリアカテというライブバーはこの街でも最もコアな場所で、旅行者のほとんど来ないところだ。

12月30日ということもあって賑わっていた。

3人しか客がいない時もあれば多過ぎて入場制限がかかることもある。

 

ペルラはビールをご馳走してくれた。

「このぐらいしかお礼出来ないけど」

「いいんだ、好きでやってることだしね」

 

彼女はバンドのメンバーを紹介してくれた。

 

・ニコ

赤毛のドレッドを束ねたフランス人、パーカッショニストとしてもパン屋としてもこの街では顔だ。

 

・ウィチョー

長髪でウィチョール族を思わせる風貌。マンドリン奏者。彼は以前も撮影したことがあった、その時はギタリストだった。

 

・ダニエレ

短髪で人見知りのイタリア人。ジャズギターにも精通する凄腕。

 

パリアカテのライブスペースが狭いことは知っていたので早目に最前列に陣取る。

 

 

彼らが演奏する音楽はバルカンミュージックだと言っていた。

初めて聞くジャンルだったし、東欧の音楽をこのクオリティでメキシコで聴けるとは幸運だった。

 

全員が見事な演奏だったが、ダニエレという人見知りのギタリストは確かに凄腕かもしれない。

 

 

 

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こうして、僕は2015年を終えた。

”肉体の有限を無視して創作する”というやり方で生きることを始めた、極めて貴重な時間だった。

 

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イチゴジャム(一期JAM)

2015年 10月初旬 San cristóbal de las casas,México

 

僕がメキシコシティに行っている間に一人のオーストラリア人が

カサカサに滞在し始めていた。

 

ドミトリーに入るとシングルベッドが小さく見えるほどの大柄な男がその巨体をゆっくり起こした。

ウェーブがかったやや長めの金髪が顔の左右に垂れており、彫刻のような端正な顔立ちを覗かせている。

「Hola」

「Hola」

「俺はアレックス」

 

僕は名前を名乗ると彼のベッド脇あるギターを見た。

「君もギターを弾くんだね」

彼は早速ギターを手に取ってかき鳴らした。

触りだけでも彼が相当上手なことがわかった。

 

「トシ、ブルース弾ける?」

「いや、得意ではない」

 

そういうとアレックスは頼んでもないのにブルースのコードやスケールを教えてくれた。

出会って半日で話している時間よりもセッションしている時間の方が長かった。

彼は人に教えるのが好きで、二言目には説明が始まってしまう性質だということを

理解するまでさして時間は掛からなかった。

 

やがてアレックスは個室に移り、いよいよ長期滞在する見通しになった。

 

ある日アレックスから映像制作を打診された。

「たけしのビートボックスと、シュンのアサラトと、ユウヤの笛と一緒にJAMセッションをしているビデオを作って見ないか?」

「面白そうだな、やろうぜ。」

アレックスはみんなに提案し、全員が二つ返事でやると答えた。

「昼間は太陽の光が強過ぎる、やるんなら夕方のテラスだ。」

時間と場所は僕が指定した。

 

夕日が煌々と照る中に四人は並んだ。

一人ずつのソロパートから始まり、やがて四つの音が重なった。

 

これが、広い世界でたまたま居合わせた旅人達の即興演奏である。

 

 

後日僕たちはアレックスとKATAと共に一つの音源を録音した。

僕がギターのリフとキーボードを担当し、アレックスにリードギターを頼んだ。

彼のかき鳴らす激情のような旋律には鳥肌が立った。

 

僕はその曲をスペイン語で流星を意味する”Meteor”(メテオール)と名付けた。

 

まだいつになるかわからないが、この音源を発表する機会が待ち遠しい。

 

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一期一会のジャムセッション

 

Sadalsuud Film 公式ウェブページ

 

半径十センチメートルの衛星軌道

”人徳”という言葉を使いたくなる時がある。

そう思わせるような人に出会った時である。

 

人に愛されることが天性として備わっているとしか言いようがない、

それ以上の説明も解析もなぜか出来ないんだ。

 

2015年 10月初旬 San cristóbal de las casas,México

 

雨季は終わりに近づいている頃合いであったが、

サンクリストバルは山であることもあって天気は安定していなかった。

心待ちにしていた太陽が顔を出すとテラスに出て体と心を暖めた。

 

キューバに行っていたアサラト奏者のシュンが帰って来たのは

そんな季節の変わり目だった。

 

僕らは一緒に映像を作ろうと約束していた。

 

彼はキューバに行っている間にもアサラトの鍛錬を続け、

映像のためのフレーズを固めて来た。

 

 

晴れ間を見計らって早速素材の撮影に取り掛かる。

 

まずはカサカサのテラスでベースとなる部分の撮影をし、

カテドラル、グアダルーペ通り、街を一望できる丘へと繰り出し

次々と撮影を敢行した。

 

彼がキューバへ行っていたわずか一月の間に

更に技術が飛躍していることに僕は驚いた。

 

素材が良ければ良いほど編集にも熱が入るというもの。

わずかな時間で僕は彼のビデオを仕上げた。

 

シュンは喜んでくれた。

「僕はこの映像と共に生きていきます」

 

 

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Facebookにその動画をアップロードすると瞬く間に広まっていった。

再生回数はそれ迄と比べ物にならないほどヒットした。

僕が作った中では歴代最高だった。

 

シュンもSNSをマメに更新する方じゃない、むしろ放置していた。

 

それなのに多くの友人がシェアし、多くの再生回数を叩き出したのは

彼の人徳によるものに違いなかった。

 

Sadalsuud Film 公式ウェブページ