今日も朝日歌壇から。
昨日(17日)の歌壇でいちばんわたしが心打たれたのは、次の歌である。
言語野に幽けき花が一つ咲く息子が私を「お母ん」と呼んだ
(戸田市 藤原真理)
佐佐木幸綱氏選第1席、馬場あき子氏選第3席、重選である。
この歌に詠まれた状況について、佐佐木幸綱氏が【評】に記している。
第一首、重度知的障害の息子さんが二十五歳になって、初めて母である作者を呼んだ場面という。
歌の種は、心の動きである。
喜びや、悲しみや、感動など、心の動きが種となり、言の葉となって歌が生まれる。
この藤原真理さんの歌の種は、初めて息子さんに「お母ん(おかん)」と呼ばれた喜び、感動である。
その喜び、感動が読む者の心に強く響いてくる。
馬場あき子氏が【評】に記している。
第三首は発語のおぼつかなかった息子の「お母ん」に感動。
25年間、どんな思いで息子さんの言葉を待ったことか。
その歳月の重さを思うと、胸がつまる。
息子さんの脳の言語野に、何か小さな変化が生じたのであろう。
それは、お母さんにとって「幽けき花」であった。
朝日歌壇を読んできて、こんなささやかですばらしいできごとと歌に触れられた幸せを感じている。