鹿たちをかわして ――朝日歌壇から―― | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 昨日(24日)の朝日歌壇では、山添ファミリーのお母さんの歌が、共選(高野公彦氏選7席、永田和宏氏選2席)で選ばれていた。

 

鹿たちをかわして向かう税務署の署という漢字は少し強面

                   (奈良市 山添聖子)

 

 「署という漢字は少し強面」は、うまい。

 市役所や出張所の「しょ」は、「所」である。

 税務署、消防署、警察署の「しょ」は、「署」である。

 「署」のほうがいかつく、親しみにくい。そして、「署」という漢字は少し強面である。

 こういう、言葉に対する感覚の鋭さに感心する。

 以前このブログで、4月2日掲載の、

 

さがほのか、古都華、珠姫、紅ほっぺ苺売り場は少女の気配

 

という、山添聖子さんの歌を紹介した。この歌も、苺の名前に少女の気配を感じるという鋭敏な感覚が、歌の種になっている。

 山添聖子さんを見習って、いろいろなものの名前を意識してみようと思う。

 

 「鹿たちをかわしてむかう税務署の」という上の句も面白い。

 奈良市では、どこに行くにも、鹿にぶつからないように気をつけなければならない。「鹿たちをかわして」は、奈良市民の日常である。しかし、他市民から見ると、愉快な光景である。

 「署という漢字」の強面に、「鹿たちをかわして」という、ちょっと笑ってしまう光景を取り合わせたのがうまいと思う。

 たとえばこれが、「所得税申告に行く税務署の署と漢字は少し強面」では、つまらない歌である。

 

 この山添聖子さんの歌も、昨日紹介した篠原俊則さんの歌も、投稿短歌はかくあるべし、という歌で、ただただ感心してしまう。

 わたしももっと練習しよう。

 

 今日の国語の授業では、山添聡介くんの歌を採り上げた。それについても後日書く予定。