『赤毛のアン』(ポプラ社文庫、作・モンゴメリ、文・白柳美彦)を読んでいて、気になる表現がありました。
居間のジャム戸だなにいれてカギをかってくるから、おじさま、カギをあずかっておいて。(122ページ)
「カギをかってくる」、気になります。
試験前、幾何の勉強をしなければならないのに、どうしても読みたい小説がある。誘惑に負けないように、アンは小説の本を戸棚に入れてカギをかけて、マシューに預けておく、という場面です。
「カギを買ってくる」ではありません。もちろん、かぎをかけてくる、の意です。
「鍵をかって」という表現があるのか、インターネットで検索してみました。
ありました!
会社の子(関東圏育ち)に「事務所の鍵、かっといてね」と言ったら「……え? どこで?」と言われ、「えっ……ここで?? ん???」となりました。
「鍵をかう」の意味は「鍵を閉める」。三河弁では「鍵かった?」「鍵かっときんよ(鍵しめ忘れないようにね)」「鍵かいんね(鍵しめなさいよ)」「鍵かわんと(鍵しめておかないと)」というような言い方で、「閉める」は出てこないと思います。(ねとらぼアンサー)
「静岡では、鍵をかけることを『鍵をかう』と言います。東京で使ってしまい、まわりの人から『えっ!? 今から鍵を買いに行くの?』と驚かれてしまいました」(28歳/出版)(マイナビウーマン)
ほかにもたくさんの書き込みが見られました。「鍵をかう」は、愛知、静岡あたりの方言のようです。
私の出身地の三重県は、愛知の隣ですが使いません。
赤毛のアンは、愛知県か静岡県の出身のようです。
そんなわけはない!
訳者がわざと方言に訳したのかとも考えましたが、アンの他のセリフでは方言はまったく見られません。
プロフィールをみると、訳者の白柳美彦氏は静岡県出身と書かれていました。方言だと気づかずに使ってしまったのでしょう。
方言をその土地の人が方言だと思わずに使っていることは、よくあることです。
それがそのまま小説の表現に出てしまったのは、珍しい現象です。校正者は気づかなかったのでしょうか。
おかげでひとつ、知識が増えました。