将棋、二題 | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 将棋の話題を二つ。どちらも心動かされる対局です。

 

 8月25日、王位戦第4局藤井総太王位豊島将之九段の終盤のできごとです。

 局面は藤井王位優位で、ほぼ勝ちという局面で、豊島九段が七段目に歩をたらして、最後の勝負に出ます。

 藤井王位が九段目に歩を打って受けておけば安泰ですが、打たなければ頓死の可能性がある、危険な手です。

 誰もが歩で受けるだろうと予想しましたが、藤井王位が選んだのは、王手となる☗4一銀でした。

 この手は次に詰めろにする手で、一手、相手に手を渡すことになる手です。

 藤井王位は自玉が詰まないことを読み切った上で、安全な手ではなく、最も速く勝つ手を選んだのです。

 安全で確実な勝ちでなく美しい勝ちを目指す、藤井王位の美学が表れた一手でした。

 この☗4一銀をAIが最善手と指摘するまでには、22億手読まなければならなかったそうです。

 藤井王位とAIとでは、勝ちにたどりつくまでの道のりが全然異なっているのでしょう。

 AIは強い手を指す。藤井総太は美しい手を指す。

 

 もう一つ。

 8月27日のABEMAトーナメントの木村一基九段黒沢怜生六段の一局。

 局面は先手の木村九段がやや優勢で終盤を迎え、黒沢六段が最後の猛ラッシュをかける、という場面です。

 このトーナメントはフィッシャールールといって、一手5秒以内に指さないと持ち時間が減っていきます。

 終盤は、ものすごいスピードで展開します。

 そんな中、黒沢六段の二枚飛車の攻撃に対して、木村九段が飛車の利きを止めるために6九に歩を打ちました。そして、「アー!」と悲鳴をあげ、頭をかかえました。二歩です。

(将棋には、同じ筋に歩を二枚打ってはならないというルールがあります。)

 受けの名手であり、タイトルを獲得したこともある、一流ベテラン棋士の、とんでもない失態です。

 この対局はABEMA TVで生中継されていたので、日本中の将棋ファンが悲鳴を上げたことでしょう。

 

 この二つの対照的な対局は、どちらもわたしには非常に魅力的に感じられました。

 AIが考えない美しい将棋を指す藤井総太五冠、AIが絶対におかさない失敗をしてしまった木村一基九段。

 こういう姿を見ると、人間っていいなあ!と思えるのです。

 

 ことのは学舎将棋教室の子どもたちにも、藤井総太の美しい将棋を知ってほしいと思います。

 相手の見落としに乗じて勝って喜んでいる段階は卒業して、もっとも美しい、完全な将棋を目指してほしいものです。

 わたし自身もまだ美しい将棋からはほど遠いレベルなので、研鑽を積みたいと思います。

 木村一基九段の二歩も他山の石として自身の将棋に生かしてほしいと思います。

 木村九段ほどの一流棋士でもミスをするのだから、君たちはどれだけ慎重に指しても慎重すぎることはありません。

 少なくとも歩を打つ前に、二歩ではないか確認する習慣をつけてもらいものです。

 もちろん、失敗は誰にでもあるのだけれど。木村九段のように。

 

 ああ、今週もいい将棋が指したい、そして、子どもたちにいい将棋を指してもらいたい!

 対照的な二局を観て、そんなことを考えました。