先日のブログに、伝記の要約について書きました。今日は要約に向かない伝記を紹介します。
『清水義範のイッキによめる!日本史人物伝 平安時代&武士の誕生編』(清水義範著、西原理恵子絵、講談社)を読みました。
平安時代の桓武天皇から室町時代の足利尊氏まで、8人の人物について書かれた、小学生向けの伝記です。
清水義範氏らしく、語りのスタイルはさまざまです。「プロジェクトX」風のTVドキュメンタリーであったり(桓武天皇)、NHKの歴史ドラマの主演がきまったアイドルがマネージャーに教えてもらうという体裁であったり(平将門)、裏話と皮肉が好きな高校歴史教師の授業であったり(北条時宗)、読者を楽しませる工夫が盛りだくさんで、普通の伝記とは一線を画しております。
内容も、普通の子ども向け伝記に多い苦労談と成功談ではなく、それぞれの人物の人間性や、その行動の歴史上の意義などが中心で、人物の魅力と歴史のダイナミズムが存分に味わえます。
清水義範氏は子供向けの本でも決して読者を子ども扱いしません。子どもだからわからないだろう、とか、子どもだからこの程度でよいだろう、という手加減がなく、大人でも十分に読み応えのある内容で、しかも子どもにも分かる内容になっています。
学生時代に歴史が苦手だったわたしは、40年前にこんな本に出合えばよかった、と思いました。
ことのは学舎の授業でも生徒たちに読ませたいのですが、困ったことがあります。
ことのは学舎では、要約という作業を生徒たちに課しています。
ただ読むのと、読んで要約を書くのとでは、読みの深さに大きな差があり、要約は読解力をつける上でもっとも効果のある作業です。
しかし、この『清水義範のイッキによめる!日本史人物伝』は、要約に向かないのです。
この本自体がすでにそれぞれの人物の事績の要約になっており、これ以上要約するのが難しい簡潔さと密度の高さを持っています。
その上、それぞれのエピソードにその人物の内面の動機が簡潔でありながらも生き生きと描かれており、省略できるところがありません。
こういう本は、要約という作業がその作品の魅力をそぎ落とす作業になってしまいます。
子どもたちに読ませたいのですが、授業でどのように扱うか、頭を悩ませています。
「面白いよ。君も読んでみる?」と勧めたい本です。
お勉強臭さやお説教臭さをくっつけずに、読ませたい。
読書の楽しさや歴史の面白さを純粋に味わいたい一冊です。
この本に先生はいりません。国語の授業には向かない名著です。