30年前、リュックサックを背に日本の中を歩いて旅をしたのだが、
旅が始まって1ヶ月もした頃、山形県の酒田で泊めていただいた方が、「読んだことないなら絶対読むべき!」と大推薦のうえで下さった本がある。
それが野田知佑さんの名著、『日本の川を旅する~カヌー単独行』 (新潮文庫) 。
日本の道を歩いていた私であったが、こちらは全国の川を河原にテントで宿泊しつつカヌーで旅した体験談である。
当時の私のように、若くて人生に迷ってるような男性が絶対憧れる、ゆるぎない人生観がこの本にはあった。
川の旅を通して、日本を、人間を、男を、自由を、自然を、切れ味ばつぐんの言葉で満喫させてくれる。
たとえばこんな言葉。
焚火を起し、ウイスキーを飲む。通りがかりの釣り師からアユの差し入れ。
ちょっと一杯どうです、と付き合ってもらった。夕暮れの川原で火の前に座りこみ、見知らぬ人と心を開いて酒をくみ交わすこと、これも川旅の楽しさの一つだ。
フネはひっくり返るものである。その時は水を出してまた乗りこめばいい。何も大騒ぎすることはないのだ、という認識がここの漁師たちにはある。そこが有難い。「危ない危ない」とべたべたお節介をやくのではなく、つき離して、一人前の男として扱ってくれるのがいい。
おれの理想は、持物はすべてバックパックに入るだけにして、風のように自由に好きなところを移動して暮らすことだ。それに入りきれないものは、このファルト・ボートのように〝折りたたみ式〟にして携帯自由であるべきだ。
即日で読んで以来、野田さんの視点を持って私は日本を旅したことは、本当に貴重な体験であった。
野田さんがやっていたのを真似て、旅をしながら各地で積極的に地元の方と話をしたのは今でも大きな財産になっていると思う。
椎名誠さんの解説がまた絶品で、隅から隅まで何度読んだことか。
読めば読むほど、その深いところがジンジン響いてくる。
ただし、改めて読んでみると、歩き旅のあとで書いた私の本の文章がどれほど影響を受けているかがバレてしまうようで実に恥ずかしい。