通潤橋 | 寿建設 社長ブログ

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福島県福島市にある建設会社です。
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昨年、地震後の熊本を訪問したり現地の方々やりとりする中で、こんな写真を見て驚いた。

50年近い人生で一度も見たことがなかった。
かなり大きな石のアーチ橋があって、その中央部から水が噴き出している。
「美しい」と思った次に、いったいこれは何だろうという疑問が生じてくる。
「通潤橋(つうじゅんきょう)」というらしい。

ものすごく好奇心の沸く景色である。


この橋の所在地である「上益城郡山都町」のHPにはこう記されている。

水の便が悪く水不足に悩んでいた白糸台地に住む民衆を救うため、江戸時代、時の惣庄屋「布田保之助(ふたやすのすけ)」が、1854年に”肥後の石工”たちの持つ技術を用いて建設した石橋。日本最大級の石造りアーチ水路橋で、国の重要文化財に指定(昭和35年)されています。長さは75.6m、高さは20.2m。橋の上部にサイフォンの原理を応用した3本の石の通水管が敷設され、今でも周辺の田畑を潤しています。放水は通水管に詰まった堆積物を取り除くために行なわれています。
http://www.town.kumamoto-yamato.lg.jp/map/pub/Detail.aspx?c_id=56&id=395

 

つまり、水を対岸の地域に流し渡すための橋なのだ。
そのあまりの美しさと、歴史的価値の高い土木構造物としてぜひ一見したいと思っていたので、今回実物を見学してきた。

 

熊本地震で被害があり、調査及び復旧のため放水や、周辺への立ち入りも一部禁止していたが、それでも圧巻の景観であった。

上記の説明文などでざっくり内容を把握していたつもりだったか、現地に行って自分が全然認識不足だったことを理解した。

この橋はただの水を流すだけではない。
説明文にある通り、「サイフォンの原理」を応用したすごい技術が用いられているのだ。

なぜそうしなければならなかったか。簡単に言えば以下。
左側にある水を、谷を越えた右側の集落へ通したい。

水は上から下へ流れるのだからこういう勾配が作れる橋を作ればいい。

しかし当時の石橋技術ではこの高さまでの建設が厳しかった。
そうするともっと技術的に建設可能な最高の位置の橋で水を通し、反対側で一旦はい上ってからまた右側の集落へと下る水路を作るしかない。

その時にいわゆる「逆サイフォン」という仕組みを利用したのだ。


詳しい理屈は以下参照
http://www.kumamotokokufu-h.ed.jp/kumamoto/isibasi/siphon.html

 

その他さまざまな部分にすごい技術が駆使されている。
間近で見ると、精巧に積み上げられた石積みも見事だという。
http://suido-ishizue.jp/daichi/part3/01/05.html

この大事業を指揮した布田保之助氏は、この仕組みを施工させるためにあちこちでいろいろな実験をしたという逸話も特に心に残った。

 

パソコンどころか電卓も測量機もなかった時代に、どうやってこれだけの設計が出来、見事目的を達成する構造物を造ることが出来たのか、不思議でならない。

最近の建設業はハイレベルな機械などに囲まれた環境にあるが、道具に溺れすぎているように感じていたが、通潤橋を見て知ってその思いが確信に近くなった。

 

そして「潤いを通す橋」という「通潤橋」というネーミングまでが見事である。

もっともっと名が知れていておかしくない、先人の偉大なる土木遺産である。

 

以下動画も解説入り