なんのことやらわからん、とお思いでしょう。すみません。自分の小説作りについての話です。
前回(といっても、前回の内容を知っている人はいないだろうが)、三つ目のエピソードをどうするかについて記したのです。
簡単に言うと、この物語は、父親から性的虐待を受けた家出少女と、たまたま出会った貧乏女性弁護士がタッグを組んで、少女の自由と希望を勝ち取るまでのお話です。
一つ目のエピソード「邂逅」では、ふたりの主人公の出会い。
ふたつ目のエピソード「悔恨」では、少女の家出のきっかけをつくった担任教師の決意。
三つ目のエピソードではどうするか悩んだすえ、ラスボスである父親を登場させようかと考えたわけです。
本当は結構、サクサク書けるかなあと思っていたんですよ。鼻ほじくりながら銀行員についての解説本をもう一度読んで(あ、この父親、メガバンクの行員です)、鼻歌うたってネットでもそんな情報を眺めて、ちょっと考えればすぐ書けるって。
ところが雲行きが怪しくなってきました。
最初はこう考えていたんです。勤めている支店の職場から入って、どんなやつなのか明らかにして、家へ帰ってイベントが一つ起きて、それでこのエピソードはおしまいって。
うーん、いま思えばこの発想がかなり浅はかだったのだよな。
書くには具体性が必要です。で、当然のことながら、さらに具体的に考え始めると「さて、このエピソードはいつの出来事だろう?少女が家出してから何日目?」と自分で自分に問うわけです。
で、結局、時系列でチャートを作ることになるわけです。
少女が家出をした当日の出来事はこうで、このおやじはこう考えて、こういう精神状態とか、翌日は前日に酒を煽るほど食らっているから二日酔いで出勤したなとか。
こういうのを延々とノートに書き出していく。曜日も考えますよね。なにしろこの父親、平日は出勤して家にはほとんどいない。すると関係者とのイベントが起きるのは土日と言うことになる。
するとですねえ、めんどくさいことに、この父親と関わる人たち、妻とかその妻の不倫相手の教師とか、そういう人たちがこの時系列でどういう思いで何していて、この父親とどういうタイムラインでどうかかわるのだっけ?なんてことも夢想していくことになる。
これもノートに書きだしていく。
その結果、何が分かったか?
おいおい、ここの部分ってかなり重要な箇所じゃん、ということ。
というのもですねえ、このモンスターおやじの心理と行動を克明に追っていくと、そのなかにこの物語で将来展開されるであろう法廷での戦いで、証拠となるような種がいくつも散らばっていることに気づくわけです。
「今頃になって気づくんかい!書き出す前から考えとかんかい!」と言われても、私はその程度の能力なんで仕方がない。
で、ここって結構、重要じゃん、と思ったわけです。
未来に向けての種まき!
むう、推理小説ってこうやって作るんだと思ったりするわけですよ。
で、そんなことが分かったのはいいのですが、「じゃあ、具体的に三つ目のエピソードはどのように書いていくの?」という当初の問題に立ち戻ると、これがまったく五里霧中。
推理小説ならさ、面白いかはともかく、さりげなーく、未来に向けてのタネを仕込みつつ、ごくごく淡々と、いかにも「平穏でーす」みたいな顔をして丁寧に書き進めるのだろうけれど、勘が「なんかそれは違う」と言っている。
なんで「それは違う」と思うのか、いろいろ考えてみる。
まずさあ、ラスボスって大体、物語で最初に現れるときはチラ見せだよね。いきなり主人公づらして、怒涛の描写なんてされても本当に困る。そもそも前の二つのエピソードで、メインの主人公ふたりもまだそんなに丁寧に描いていないのに、ここでラスボスが大量のページ数を占拠したらこれはもう物語の乗っ取り!テロですよテロ!物語が壊れてしまう!
それから、もうひとつモヤモヤするのは、この物語は推理小説じゃないからさ(もちろん、物語には推理小説的な手法は必ずあるのだけれど)、ここで全部読者に提示する必要がないよねということ。
本格推理小説なら、途中で「さあ、読者諸君。君たちが謎を解くヒントはこれですべて示された。正しい犯人とトリックを当てられるかな」とか言う「読者への挑戦状」を挟んで(懐かしい!エラリー・クイーンだ!)、解決編へ行くのだけれど、この物語はそういうのじゃないからねえ。
で、さらに考えなきゃいけないことに気づくわけです!遅まきながら!
まだ書いていない物語の全体像を想定して、今後明らかにされる話はどれで、ここで明らかにしておく話はどれなのか?
この仕分け作業です。
そのためには、この三つ目のエピソードにはまったく出てこなくても、少女が家出してからの三週間程度の期間の登場人物たちの心理と行動を、このラスボスも含めて、徹底的にプロファイリングして考察して固めておく必要がある。
これをしっかりやるということは、実は中盤以降の物語の展開が想像できてくる、ということでもあるのです。
このおやじの行動は、この人の証言で間接証拠になるよなとか、そもそもこの時の行動は変だから法廷で追求できるよなとか、この物的証拠を手に入れるために物語の未来で何が行われるかとか。
まだ見ぬ物語の未来の種を仕込んでいく作業。
なんだかあくまでも創作上の話なのですが、時空を超えて繋がっていくのが空想していてとても素敵です。
ということで、この三つ目のエピソードはまださらに時間がかかりそう。