【盤考察】Silent Siren/『S』 | 超個人的音楽のススメ。

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Silent Sirenの4thアルバム『S』。

3rdアルバムであり、初のセルフタイトルであった『サイレントサイレン』では、バンドの名を冠する通り
Silent Sirenのカラーとバンドサウンドの確立を提示したものであった。
実際世辞抜きにしてもそれだけのクオリティがあったし、彼女達が読モバンドからガールズバンドへ
と歩を進めた、その証明のような1枚だった。演奏力も、リリックも、バンドとしてもカラーも、
デビュー当時からの地続きにあるものが全て限界値まで引き上げられていた。

しかしながら彼女たちはこの『S』で、更にその上を提示して見せたのだ。
バンドのカラーはリファインされ、演奏力は更にビルドアップされ、すぅの紡ぐ歌詞に作詞者としての成長となる
言葉遊びと、女性としての成長を感じさせるセクシーな歌詞が搭載された。
多彩さと深みが増したアレンジも、彼女達がそれに耐え得る力を付けた事の証明に他ならない。
彼女たちは自ら提示した限界値を、自らの力で突破してみせた。

前作『サイレントサイレン』が“ガールズバンド”Silent Sirenのアルバムのであれば、
今作『S』は″バンド”Silent Sirenのアルバムと言うべきだろう。


これぞ「サイサイ」とも言うべき彼女達のカラーを極めたポップチューン「チェリボム」、
新機軸でもあるVo.すぅ作曲のマイナーコードの疾走感が夏の風を感じさせるエモロック「八月の夜」、
結婚するサイサイファンの為に書き下ろした自身初のマリッジソング「ハピマリ」、
Vo.すぅの実体験である同窓会に出席した際の落胆の気持ちをコミカルに描き切った「吉田さん」、
そしてDr.ひなんちゅがこの「吉田さん」と真逆の女性像を自身の葛藤と共に描いた「レイラ」など
全シングル曲クラスのナンバーが並ぶ強力な1枚だ。


Silent Sirenは「読モバンド」と華々しく紹介される反面、実は叩き上げのバンドである。
LIVEハウスとも言えないような小さなイベントスペースからそのキャリアをスタートさせ、
着々とそのステージを拡大させていき、ガールズバンド史上最速での日本武道館公演を成功させ、
ロックフェスにも参加し持ち前のキュートさとポップさで多くのオーディエンスを席巻、
そして自身最大キャパである横浜アリーナの公演も控えている。

彼女達は自身の最大速度で次々と夢を勝ち取ってきた、数字だけを見ればそうだろう。
しかしこれは見た目通りの単純なシンデレラストーリーではない。
読者モデルをはじめメディアでの仕事を続けながらも、バンドの鍛錬にも余念は無く
リリースの度に全国各地を回り、イベントを重ね、地道のその名を広めてきた。
ルックスの華やかさに付きまとう「本物のバンドじゃない」というイメージを払拭すべく、
全膂力の限りを尽くし、泥だらけになりながらも歩みを止めず、血だらけになりながらも
直進する事を止めなかった、他のバンドには想像もつかないような速度で走ってきたからこそ
実現してこれた今があるのだと思う。

「ロックバンド」という概念に「Silent Siren」という意志で真っ向から立ち向かい、
「本物のバンド」という世論に「本気」という覚悟で挑み続けてきた。
御幣を承知で言えば、Silent Sirenこそ最もバンドらしいバンドである、そう断言できる。

そして今一度問いかけたいのは「本物」というものの意義だ。
作詞、作曲をしれいれば本物なのか、本格的なロックをしていれば本物なのか。
彼女達の生き様は、その「本物」へ対しての挑戦であり、そしてアンチテーゼなのかもしれない。