手話との出会いは社会人1年目の冬。
新入社員の私たちが、茨城にある工場にヘルプで行っていたときのこと。
冬の日暮れは早く、気温は急激に下がる。
一通りの仕事を終え、上司の最後の作業が終わるのを待つ私たち。
その後ろに、一人の男性が立っていた。
何をするというわけでもなく、黙ってそこにいる彼。
何してるのかな?
何となく気になる。
でも私にとってそこはいつも通っている場所ではない上に
新入社員なので何もわからない。
気にしつつもそのうち彼のことは意識の外になり、
同期の子たちとおしゃべりしながら待つこと数十分。
作業の終わった上司のもとに、彼が歩み寄った。
「◯◯◯◯ナンバーの車、誰か乗ってきた?」
「あ、俺です!」
上司の言葉に、答える同期の男の子。
「車が出せないみたいだから動かして」
ほんの少しのやりとり。
それが、私にはものすごくショックだった。
もし私が、手話を知っていたら
もし私が、彼がろうあ者であることを知っていたら
彼は数十分もここで待つ必要はなかったのに。
もしかしたらその気持ちはちょっと傲慢なものだったのかもしれない。
これを書いていて、今の私は思う。
でもその時の私は、
それまで自分の世界にまったく存在していなかったものを前にして
ものすごい衝撃を受けたのだった。
だってこんなこと、
健聴者同士だったらほんの少しの声かけで済んでしまう
記憶にも残らないようなことなのだ。
だからやっぱり、もし私がちょっとだけでも気づければ。
お互いが気にして、開示することができていたら
そんな数十分はなかったかもしれないのに。
そんなことがあって、私はすぐに手話講座に通い始めた。
毎日終電で帰る日々の中、無理やり定時にあがる日をつくって。
人間、やればできる(笑)
そして気づいたら通訳養成コースにまで通えるほどになって
北海道では『北海道手話通訳者2級』まで取得してしまっていた。
>『もっと知りたい、もっと話したい③』につづく