日本語のうまい日本人 | ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

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ことばに宿る、不思議なチカラ。
人間の言語習得やコミュニケーション能力の奥深さはまだ解明されていないけれど、とんでもなくおもしろい。
気づいたら私のコトバ探検は本格化されていた。

オーストラリアでの日々。
私はなるべく、日本人とは過ごさずにいたかった。

ホームステイをしたり ファームステイをしたり
ボランティアをしたり 旅をしたり。

そんな日々の中、貯金が底をついてきた私は
シドニーのお寿司屋さんでアルバイトをすることになった。


ワーキングホリデーはその国で働いてもいいよ、というビザだ。
でもだからといってすべてが希望通りにいくわけではない。

もし現地の会社で働きたいのなら
当然経験も、かなりのレベルの英語力も必須。
しかもワーホリの場合、(当時は)1ヶ所に最長3ヶ月という制約があった。


そんなわけで働き始めたお寿司屋さん。
私は作る側の人。
ちなみに時給は当時のレートでだいたい650円くらい。

ひ~~~っ(>_<)

でも、ないよりマシ。
この後の旅の、貴重な資金源だもの。


オーストラリア人の友人宅にステイさせてもらっているとはいえ
お寿司屋さんでは日本語ばかりになってしまう。
そんなわけで自分の英語に関して少し心配だった私。

でもここでは、今までとはまた一味違った出会いが待っていた。


そこには、両親は日本人だがシドニーで生まれ育ったという
高校2年生の男の子がいた。
彼は普通に、オーストラリアの子と同じように現地の学校に通っていた。

しばらく話していると、彼が聞いてきた。


「僕の日本語、どうですか?」


さて。

どうだったでしょう?


彼の日本語は、“日本語が上手な人の日本語”だった。

つまり、イントネーションや言い回しなど、すべてが
“日本語を母国語とする人の日本語ではなかった”ということ。

見た目はもちろん日本人。
私との会話ももちろん日本語。

でも彼にとっての母語は英語だった。

彼のご両親にとって日本語は気楽な母語だし
彼の中からも日本語が消えてしまわないように
家では日本語を話していたのだと思う。

でもあくまでも、彼の第一言語は英語だった。

だから、上手だけど…上手なんだけど…
彼の日本語は、日本人の日本語ではなかったというわけ。

彼がこのお寿司屋さんで働く理由―――
それは、日本語の勉強のためだったというわけ。


世界を見れば、彼のような人はたくさんいる。

でも日本しか知らないときは、決して知ることのなかった
『人間の言葉と環境』の話。

私が通っていた中学・高校には帰国子女が多かったけれど
それでさえ、彼らはやっぱり『日本語を母語とする日本人』だった。



社会に出れば、彼のような人はバイリンガルとして活躍できる。
もしかして環境によってはマルチリンガルとして。

その立場にはその立場なりの苦労もあるだろう。

でも

私はちょっぴりうらやましかった。