対談・分子栄養療法が“60歳うつ”を救う、藤川徳美×秋田巌~その2

*藤川メソッドはすさまじい
秋田 こうしてお話しができるのは、私にとって奇跡のようなことです。私が日本の精神科医で最も尊敬していたのは森田療法の創始者である、森田正馬先生でした。私は高知県出身ですので、高知の大先輩でもあります。
しかし、患者さんが治るという意味では、分子栄養学にはかないません。それも藤川先生が実践されるセレクトと組み合わせ。これが大事なところです。日本の分子栄養学には、欧米のオーソモレキュラーの流れを汲んだ考え方がありますが、藤川先生が説かれる分子栄養療法は、理論や実践法はわかりやすいですし、比較的安価なので誰にでもできます。
藤川 日本のオーソモレキュラーは、診断料もサプリメント代も高額だと思いますね。月に10万円以上かかるような方法では一般の人は続けられません。私が提案する方法は、プロテインと基本的なミネラル、ビタミンのサプリメントで月1万円くらいです。
秋田 iHerb(アイハーブ)などのインターネット通販で揃うのでとてもありがたい。ビタミンCだけでも、どれを選べばいいのか素人には難しいですよ。そこも事細かに、どこで、どんなものを買ったらいいということを書いてくださるので、すぐに真似ができます。
そのように分かりやすく情報発信して、「クリニックに来なくてもいい」とおっしゃる。そういう医者はなかなかいません。
ふじかわクリニックの患者さん、読者の皆さんも同じお気持ちだと思います。私は僭越ながら同じ医者としても、藤川先生のすごさを実感しています。
分子栄養学から着想を得たその知見はもちろんですが、広く日本中の人によくなってほしいという、非常に純粋で強靱な意志を感じます。毎日SNSにアップされることも真似ができません。お世辞ばかりのように聞こえるかもしれませんが、すべて本心です。
藤川 Facebookをベースに7年、月曜から土曜の毎日続けています。
秋田 今日はどんな記事がアップされるのだろうと、胸を躍らせ読んでいます、もし私が一日読むのが遅れたら、患者さんのほうの知識が増えているのです。
当院にも藤川先生のファンの患者さんはたくさんいらっしゃいます。じつは患者さんに怒られたことがあるのです。「起立性調整障害(OD)には、マグネシウムを出さない」と書いておられたと指摘を受けたのです。私はその記事を確認せず、マグネシウムを出していました。「高血圧症の血圧は確かに下げるけれども、血圧の低い人には、血圧をそれ以上は下げないのでは」と思っていましたし、実際その患者さんは良くなっていたのです。でもその後、来てくれなくなりました。藤川先生の考えに反した指導すると信頼をなくしてしまいます。

*医療従事者はプライドが邪魔する
秋田 血液検査の結果、フェリチン値が20では低いとお伝えしても「基準値を満たしているじゃないか」と反論されることもあります。特に医療関係者に多いです。
藤川 当院もそうですよ。医療関係者は特に常識やプライドが邪魔してしまうのか、「そんな話は聞いたことがない」と怒り出してしまう人もいました。
秋田 心身の不調に対して、栄養に着目することは基礎中の基礎にもかかわらず、それが医療分野の教育に欠けていますし、それがもっと広く家庭にももっと浸透しないといけないですよね。高たんぱく/低糖質食、プロテイン、鉄、それにプラスアルファですけれども、素直にやってくださったらサクサクよくなるのに、理屈をこねてしまうと難しい。しっかり勉強して理屈をこねてるいのはまだいいのですが、インターネットで検索しただけの知識でいろいろおっしゃる人もいて……、難儀です。
藤川 ある種の“わがまま”さも症状の一つですから。
秋田 性格だと思っていたら、症状の一つだったということもありますよね。
藤川「産後、妻の性格が変わってしまった」と呆然とする旦那さんもいます。もっとも鉄不足になるのは産後ですから。出産の時に子どもに全部とられて空っぽになってしまう。そうすると、些細なことで腹が立ったり、イライラが治まらなかったりします。性格が変わったわけではなく、鉄不足による症状です。

*精神科クリニックは薬漬けにしているだけ
秋田 私は藤川先生を「広島の魔法使い」とお呼びしています。私は『うつ、パニックは「鉄」不足が原因だった』(光文社新書)が出る2017年までは薬を出す、一般的な精神科医でした。ユング派分析家ですから心理療法もいたしますが、薬をもらいにくる患者さんがどんどん増えていくばかりだったのです。
藤川 薬は止められないですね。寛解状態でしかなく完治はしませんから。
秋田 私が知る心療内科クリニックも、新患3カ月待ち、6カ月待ち、新患を受け付けないというところもあります。患者さんはそういうところを人気のクリニックだと思うでしょう。しかしどうでしょうか、言葉は悪いですが“薬漬け”にしているだけではないかと思うことがあります。
藤川 私もそう思いますね。
秋田 定期的に薬を取りにくる患者さんがいなくならないから、新患を入れる余地がなくなるわけです。
藤川 待合室では、薬の副作用でうとうとと寝ている患者さんが多いですよね。私は初診から抗不安薬とか睡眠薬を出すことはしません。他院から移ってきて継続している人には出しますが、できるだけ減らしていくことを目指します。
秋田 特に抗不安薬と睡眠薬の依存性は大きいです。私は藤川先生の本を読むまでは大学教授をしていましたが、分子栄養学を実践するために早期退職して、61歳でクリニックを開業しました。私は過去に診察した患者さんを薬漬けにしたという意識はありませんでした。良かれと思ってしていたことです。しかし、結果的に薬漬けだったのでしょう。今はその罪滅ぼしという気持ちもあります。

秋田 巌:60歳うつ (PHP新書)、
2月16日発売、予約受付が始まっています。


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