EAA(必須アミノ酸)のみの大量摂取で不調に?

「メガビタミン健康法」より、

  筋力トレーニングをつづけている方を中心に、タンパク質のサプリメントであるEAA(必須アミノ酸)の有用性が注目されました。もともとプロテインを勧めていた私ですが「プロテインは大量に飲めないけれど、EAAであれば少量で必須アミノ酸が摂れるのでそちらを飲みたい」という方もいます。まずは先入観を持たず、私自身も市販されているEAAや(処方薬EAA)ESポリタミン1日2g×2回をしばらく試してみることにしました。
  とはいえ、タンパク質摂取の基本はプロテインであるというのが私の考えでしたので、患者さんにはあくまでプロテインと併用していただくことをお願いしていました。私自身もプロテインのサポートとしてなら、EAAは良いサプリメントだと感じていました。
  ところがEAAの方が効率よく必須アミノ酸が摂れるとして、そのうちにプロテインは摂らずにEAAのみ、しかも大量摂取する方が増えてきました。それにともなって不調を訴える方も出てきたのです。大量に飲みはじめた当初は良いのですが、2~3か月継続すると、うつ状態や軽躁状態になる人が増えている様子がわかりました。
  それを解消するために、「ビタミンB6、ビオチン、その他のビタミンやミネラルを加えるべき」など様々な主張がFB、TwitterなどのSNSでみられました。

EAAパラドックスが起きるメカニズム
  ここでアミノ酸の基本的な知識を振り返りましょう。
  タンパク質は20種類のアミノ酸が結合して、できています。アミノ酸は大きくは「必須アミノ酸」と「非必須アミノ酸」に分かれますが、体内で合成できないため食事から摂取する必要のある9種類が必須アミノ酸(EAA:essential amino acids)、体内で合成できる11種類が非必須アミノ酸(NEAA:non-essential amino acids)となります。

・必須アミノ酸(EAA)
 イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、スレオニン、バリン(子どもはこれにアルギニンを加えた10種類)

・非必須アミノ酸(NEAA)
 アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸

『うつ消しごはん』でも紹介した「必須アミノ酸の桶の理論」はご存じの方も多いと思います。桶には1枚でも低い桶板があると、そこまでしか水が入りません。これと同様に、アミノ酸も最も不足する必須アミノ酸のレベルでしか体内でタンパク質として利用されないのです。先に述べたプロテインスコアなどのタンパク質の評価でも、9種類の必須アミノ酸のバランスが良ければ高いスコアになります。
「だから必須アミノ酸をしっかり摂ろう」ということになるのですが、その前提条件として、非必須アミノ酸の存在を忘れてはいけません。
 非必須アミノ酸は体内で合成できますが、それは「必ずしも摂らなくてよい」ということではないのです。「必須アミノ酸の桶の理論」は、非必須アミノ酸が十分量あることが大前提です。
  なぜなら体内で合成される非必須アミノ酸は、必須アミノ酸も材料にしているからです。プロテインスコアも非必須アミノ酸が十分あるという前提のもとで、各必須アミノ酸必要量を評価したものです。
    もしプロテインを摂らずEAAのみを大量摂取してしまうと、EAAが非必須アミノ酸合成に浪費され、プロテインスコアが低下してしまいます。つまり、EAAのみの大量摂取はEAA不足を引き起こすという「EAAパラドックス」が起きてしまうのです。
 繰り返しますが、非必須アミノ酸は「体に不必要なアミノ酸」ではなく、「体に必要だが必須アミノ酸から合成可能なアミノ酸」であることを忘れないでください。
  また、プロテインを摂らずにEAAのみの摂取では、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンのアンバランスを引き起こすことになってしまいます。その結果、軽躁状態が引き起こされてしまうのです。
  プロテインを飲めない人が、EAAを大量に摂ることだけは避けてください。少量でもプロテインを飲むことからはじめるのが基本です。
  また、プロテイン量が不十分なままEAAを夜飲むと、不眠になることもあります。対策としては、やはりプロテインを十分量摂ることです。そしてEAAを日中に飲むようにすれば、不眠は解消されるでしょう。


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