メグビーメールマガジンVol.108

三石巌全業績 17、老化への挑戦

「時限爆弾の小包」
「獅子身中(しししんちゅう)の虫」という古い言葉がある。これは、身内のなかの敵というほどの意味だ。活性酸素はまがいもなく獅子身中の虫に違いないが、それが引き金となって発生する色々なラジカルも、まがいもなく獅子身中の虫である。活性酸素のうちでも、スーパーオキサイドとヒドロキシルラジカルとはラジカルの一族である。
 ラジカル一族には2つの特性がある。第一は寿命がきわめて短いこと。第二は、2つのラジカルが一緒になると矛をおさめることである。この二つは不可分のものであって、第二の特性が一瞬のうちに発揮されるために、第一の特性があらわれるのだ。ラジカルの寿命は、長くても100分の1秒はもたない。ラジカルのテロ行為は、まさに電光石火というところである。ラジカルが2つよれば、テロ行為がおさまるという事実は、われわれにとって救いというべきだろう。ラジカルは、単独犯専門のテロ分子なのだ。ラジカルが単独犯しかできない理由はこうである。ラジカルとは、すでに説いたように不対電子とよばれる活性の電子をもつ原子、もしくは原子団のことだ。
 電子とよばれる粒子は、原子や分子にふくまれる場合、1個であることを好まない。その理由としては、原子核をめぐる原子軌道というものが、1個につき2個の電子を収容して安定する性質をもつことをあげることができる。不対電子というのは、1個の電子が軌道上にいるものである。それは、2個になって対を作りたいものだから、そばにある電子を勝手に引っこ抜こうとする。これがテロ行為の正体なのだ。
 電子を引き抜くことは酸化である。だからラジカルは「酸化魔」であり、その犯行は酸化犯である。ところがこの犯行は電光石火のすばやさだから、そば杖を食わせるだけになる。それは、そばにあるものを短い杖でたたくような犯行である。だから、被害は至近距離にかぎる。少し離れたところは、いわゆる対岸の火災で、高見の見物ですますことができる。
 ラジカルが不飽和脂肪酸を酸化して、過酸化脂質をつくることをご存じのはずだ。このものは寿命が長い。したがってそれが何もせずにいるのなら問題はない。ところが、何かのはずみで割れることがある。すると、活性酸素の1つ一重項酸素があらわれる。これはラジカルではないけれどテロ分子であることに間違いはない。そこで、過酸化脂質は曲者ということになる。これが血液に運ばれていくと、どこかで犯行をおかす危険があるからだ。私はこれに「時限爆弾の小包」というニックネームを呈上したい。この小包はとんでもない所に流れついて、そこで爆発するのだ。この小包を活性酸素が仕組んだ悪魔の贈り物といったらどうだろうか。
 この贈り物がいやなら、その種になる不飽和脂肪酸をとらない心掛けがいる。ハーマンのネズミの実験がそれだった。しかし私は別のことを考える。それは活性酸素除去を徹底することだ。不飽和脂肪酸にはプロスタグランディンの材料になるという重要な役割があるのだから、それを敬遠するのは、本来はバカげたことなのである。
 ここにいう時限爆弾の小包に対して、われわれが無力であるわけではない。生体はそれを処理する手段をもっている。それはほかでもなく、過酸化水素除去酵素の1つグルタチオンペルオキシダーゼなのである。この酵素は小包を解体して無力化する力を持っているのだ。これは生体が自前で作る物質であるが、セレン(セレニウム)が材料として要求される。
 セレンの給源としては、ネギ類やゴマなどがある。なお、ここに出てきた過酸化水素は活性酸素であるが、それは過酸化脂質にならなくても、そのままで郵便物になる。血液などに運ばれてどこへでも送られる。そして、二価鉄イオンがあれば、そこでヒドロキシルラジカルに変身して破壊活動をはじめる。
 これは、二価鉄イオンでなくても、一価銅イオンでもヒドロキシルラジカルに変身する。コーラ類に一価銅イオンがあるので、アメリカでこれを多飲した場合、心臓病が増えたという話が、アメリカの医学誌『メディカルトリビューン』にのっていた。

【三石巌 全業績 17 「老化への挑戦」より抜粋】
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活性酸素=不飽和脂肪酸の電子を奪い、酸化させる=電子ドロボー。
糖質=ビタミン、ミネラルを浪費して、枯渇させる=栄養ドロボー。