今月のメグビーメールマガジン、より
三石巌の書籍で、現在絶版のため読むことができない物の中から、「高タンパク健康法」サブタイトル毎にご紹介させていただきます。
第1章 ~高タンパク食の軌跡~ 高タンパクはなぜ必要か
-三大栄養素中もっとも生体・生命と直結
【アミノ酸の鎖状分子】
断わるまでもなく、タンパク食品は多種多様である。
肉も魚も豆腐も味噌も、チーズも卵も牛乳も、すべてがタンパク質のたぐいではないか。それならば、タンパク質を食えといわれたとき、豆腐でも卵でも、何でもよいのだろうか。どんな形のタンパク質も、口にはいれば、けっきょくは同じものになる、と考えてよいのだろうか。
前項では、卵白のアルブミン、骨のゼラチン、牛乳のカゼイン、小麦粉のグルテンなどを、タンパク質の例としてあげた。それらにはむろん共通点があったが、相違点もないではなかった。その相違点は、栄養上においても相違点になるのであろうか。
素朴に考えても、タンパク質にまつわる問題はなかなか多い。その問題を解決するためには、タンパク質の化学をもう一歩深める必要がある。タンパク質という名で総括される化学物質は、一筋なわでゆくような単純なしろものではないのだ。われわれは、どうしても、「アミノ酸」に着目しなければならない。
アミノ酸とは、「アミノ基」とよばれる原子団と、カルボン酸という酸の基礎になる「カルボキシル基」とよばれる原子団と、両者をもつことを特徴とする化合物の呼び名である。
アミノ酸のなかには、アミノ基を2個もつものも、カルボキシル基を2個もつものもある。
フランスのブラコンノーは1818年、ゼラチンをうすい硫酸で煮てみた。そしてこれをアルカリで中和すると、甘い味のする物質がでてきた。彼はこれに「グリシン」という名前をつけた。グリは“甘い”ことを意味する。グリシンは、アミノ基1個、カルボキシル基1個をもつ化合物であるから、まさしくアミノ酸の1つ、ということになる。
ブラコンノーはまた、筋肉や羊毛を分解した液から結晶をとりだすことに成功した。このものは色が白かったので、彼はこれを「ロイシン」と呼ぶことにした。ロイシンという名は、ロイコ(白い)ということばからでている。一方、ドイツのリービッヒは、チーズから「チロシン」を抽出した。ロイシンもチロシンも、アミノ基1個、カルボキシル基1個をもつアミノ酸である。
アミノ酸にいろいろな種類のあることがわかると、多くの化学者が、その方面の研究にのりだした。1886年、シュルツェは、発芽した種子から「アルギニン」を、ドレクゼルもやはり発芽した種子から「リジン」と「ヒスチジン」を、1906年には、ホプキンズが牛乳から「トリプトファン」を発見した。
アミノ酸とタンパク質との関係を大局的に見たのは、ドイツのエミール・フィッシャーである。
1902年、彼は多くのアミノ酸を分離する方法を発見し、その種類や量を推定する方法を開発した。そして、アミノ酸の数百個結合したものがタンパク質であり、数十個結合したものが「ペプトン」であろうといった。
そしてまた彼は、アミノ酸2分子から1分子の水がとれて縮合した形の分子を「ペプチド」と名づけた。さらに、このような縮合を「ペプチド結合」と名づけた。多くのアミノ酸がつぎつぎとペプチド結合をしてつくった鎖状分子をタンパク質の実体であるとした。これを「ポリペプチド」という。ポリは“多数”を意味する。
ポリペプチドは、分子量12,000ないし数100万という高分子である。分子量1万以下のものは「ペプチド」と呼ばれている。
【生体におけるタンパク質の役割】
タンパク質は三大栄養素の1つとして、われわれがぜひとも口に入れなければならない物質である。ところがその実体はポリペプチドであって、アミノ酸の鎖にほかならない。
一方、われわれのからだもタンパク質でできている。これもやはりポリペプチドである。アミノ酸の長い長い鎖である。
われわれの消化管にはいったポリペプチドは、タンパク消化酵素によって、その鎖が切れる。先に「ペプトン」ということばがでたが、これは、消化酵素ペプシンの作用によって切れたポリペプチドを意味する。ただし、ペプトンはまだアミノ酸ではない。タンパク質のペプチド結合がのこらず切れて、それがばらばらなアミノ酸になるまでには、ペプシン以外の消化酵素の登場を待たなければならない。このあたりの事情は、けっして単純ではなく、さまざまな手続きを要する。
まず、ペプシンは胃壁の分泌する胃液にふくまれている。この消化酵素は強酸性でよく働くので、胃のなかでタンパク質のペプチド結合を切る。このとき胃壁からはムチンも分泌されるが、これはタンパク質である胃壁がペプシンによって消化されることを防ぐのが役目である。
さて、胃の内容物が十二指腸にでてゆくと、それへの応答として、十二指腸壁の粘膜から2種のホルモンが分泌され、それが血中にはいる。この血液が膵臓に流れてゆくと、その刺激によって、膵臓の細胞から膵液が分泌されるが、このなかにトリプシンの前駆物質トリプシノーゲンがふくまれている。トリプシノーゲンが十二指腸に流れこみ、小腸に達すると、小腸壁から分泌される酵素の働きで鎖が切れ、トリプシンに変わる。
一方、胃のなかのペプシンは、タンパク質の大部分を、ペプトンまた
はプロテアーゼにまで分解するが、これらをすべてアミノ酸にまで分解するのがトリプシンを頂点とするもろもろのタンパク分解酵素である。
タンパク質をつくるアミノ酸の鎖のペプチド結合にはそれぞれにくせがある。グルタミン酸とグルタミン酸との結合は、グルタミン酸とリジンとの結合とは、くせがちがう。そのくせに応じた切断作業員がいるわけだから、トリプシンのほかに、キモトリプシンがあり、さらに、ペプチダーゼという接尾語のついた酵素がいくつもでてきて、それぞれに役割をはたすのだ。
こうしてばらばらにちぎれたアミノ酸が、小腸壁において血液に吸収される。ただし、ペプチドの形のものも、ある程度は小腸壁からそのまま吸収される。タンパクホルモンや消炎酵素などを経口的にとる場合は、そのような目こぼしをあてにするわけだ。
糖尿病患者に投与されるインシュリンはタンパクホルモンである。これを、服用するのでなく注射するのは、消化管内での分解が予想されるからにほかならない。
【消化システムと消化過程】
ペプチドまたはポリペプチドを、消化されずに血中にとりこむ目的で口に入れるときは、空腹時がよいだろう。
食物を口に入れる場合、まず、唾液がこれを迎える。これの分泌は神経の支配をうけるものであって、食物を見たり、かいだり、それについて考えたりすることが引き金となる。大脳皮質から、この刺激にフィードバックする信号がでて、それが延髄にくる。そして、唾液分泌中枢が賦活されて唾液の分泌を実現するのである。このシステムから考えると、タンパクホルモンや消炎酵素などの錠剤の場合、十分な唾液のでることは予想しにくい。第一、唾液のなかにタンパク消化酵素は存在しない。
タンパク質が胃にはいると、それが胃壁を刺激し「ガストリン」という名のホルモンを分泌させる。それが血液に吸収され、その血液が胃腺を刺激して、ペプシンをふくむ胃液の分泌となる。タンパク質は小腸にいっても、その粘膜に働いてガストリンを分泌させ、これを血中に送りこむのである。
この過程を考えると、食物としての魅力のないタンパク質の錠剤も、ペプシンの目をのがれることは容易でないだろう。もしこれが食事のあとだったりすれば、大量のペプシンがすでにあるわけだから、せっかくの錠剤も巻きぞえを食って分解される危険性が大きいはずだ。
トリプシンのフィードバック・システムについてはすでに述べたところであるが、とにかく、消化機構は抜け目のないものであるから、タンパクホルモンでも酵素でも、そのままの形で血中にとりこむことを望んだ場合、目的を達するのはごく微量と覚悟すべきであろう。
これはもちろん成人についての話であるが、この巧みなフィードバック・システムが完成するまでには相当な時間がかかる。ということは、新生児の場合、タンパク質はアミノ酸にまで分解されることなしに吸収されることを意味する。母乳を飲めば、そのタンパク質は、そのまま血中にはいる。だから、やたらなタンパク質を与えてはならないわけだ。
子供には、母親のもつ抗体が存在するといわれるが、これも、消化機能が未完成のあいだに、母乳から供給されるものであろう。抗体もまたタンパク質だからである。
われわれの口からはいったタンパク質は、原則として、大部分がアミノ酸にまで分解し、腸壁から血液にはいる。そして、「門脈」という名の太い血管をとおって肝臓にたどりつく。肝臓はそれを自分自身の組織タンパクに同化する一方、血清タンパクを合成する。
あまったアミノ酸はそのまま肝臓をはなれ、血中アミノ酸として全身をめぐる。
そしてその一部は、アミノ基をうばわれて、糖質や脂質となり、あるいはエネルギー化するのである。
【三石巌 高タンパク健康法(絶版)P47~56より抜粋】
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