6月のメグビーメールマガジン

三石巌の書籍で、現在絶版のため読むことができない物の中から、「高タンパク健康法」サブタイトル毎にご紹介させていただきます。
 
第1章    ~高タンパク食の軌跡~ 高タンパクはなぜ必要か
   -三大栄養素中もっとも生体・生命と直結
 
チョー(CHO)とチョン(CHON)
栄養に関する常識が問われたとき、ほぼ反射的に思いだされるのは、“三大栄養素”である。
習慣上、その第一にくるのは「糖質」である。これを、炭水化物といい、含水炭素といって悪いことはない。
これらのことばは、糖質が、炭素と水との化合物であるところからきている。
本書では、主としてタンパク質を扱うが、そのことばに“質”がついている関係上、同じく“質”のつく「糖質」をとることにする。
脂肪についても同様、ここでは「脂質」という用語をとる。この場合、脂質のなかには、脂肪と類脂質(リポイド)とがふくまれている。
三大栄養素の第二にくるのは、この脂質である。そして、最後にくるのはタンパク質である。
これらの栄養素は、たんに体内にとりこまれればそれでよいというものではない。
呼吸によってとりこまれた酸素と合体して、初めてその価値を発揮する。
呼吸の化学が明らかになるまで、栄養の本質はわからなかった。
そして、それを明らかにしたのはフランス人ラボアジェ、1785年のことである。
ラボアジェは、呼吸についての人体実験を試みた。呼気中の酸素100gのゆくえを求めようとしたのである。
彼は、そのうち81gが、炭素と結合して二酸化炭素の形で吐きだされることを知った。そして、残りの19gは、水素と結合して水または水蒸気になる、と考えた。
三大栄養素はいずれも炭素と水素とをふくんでいる。それらの元素は、酸素と結合することによってエネルギーを発生し、栄養素としての面目を発揮することになる。
糖質、脂質を「チョー(CHO)」、タンパク質を「チョン(CHON)」と記憶せよ、と教える人がいる。
Cは炭素、Hは水素、Oは酸素の記号であるから、チョーは、炭素、水素、酸素の化合物であることをあらわしている。
またNは窒素の記号である。タンパク質が、糖質や脂質に比べて複雑な化合物であることは、チョンと聞いただけでもわかる。
窒素はタンパク質の約16%を占める。糖質や脂質はチョーだから、酸素との結合によって二酸化炭素と水とになり、あとくされなく100%がエネルギー化する。
それに反して、タンパク質は窒素があるから、たんなるエネルギー源ではないはずだ。

【糖質、脂質との相違点】
ところでわれわれは、菜食主義者でなくても、三大栄養素が植物からとれることを知っている。
植物はエネルギー源をつくりだす能力をもっているのだ。むろんそのもとは日光のエネルギーである。
緑色植物は「光合成」とよばれる化学反応によって、ブドウ糖の形で、太陽エネルギーをかんづめにすることができるのだ。植物は、空気中の二酸化炭素と、根から吸いあげた水とを、光のエネルギーの助けによって結合させ、ブドウ糖を合成する。これが動物のからだにはいれば、二酸化炭素と水とに分解して、エネルギーを放出する。
両者は、マクロに見れば、“可逆反応”の関係にある。
ブドウ糖がこのようにしてエネルギーを発生するのは、酸素と結合したときである。ここには酸化がある。酸化の逆は“還元”である。植物は、光化学反応によって還元物質をつくり、動物はその還元物質の酸化によってエネルギーを得る、という関係になっている。
植物は、このブドウ糖を原料として、デンプンをつくり、脂肪をつくり、タンパク質をつくる。タンパク質はCHONだから、窒素がなければならない。それは、地中から吸いあげた水のなかに、アンモニア、亜硝酸、硝酸などの形でふくまれている。
これらの窒素化合物は、主として動植物の腐敗によってつくられたものだ。微生物の生命活動によってつくられたものだ。
ここで、エネルギーレベルの概念を、大ざっぱな意味で使いたいと思う。
糖質や脂質は、二酸化炭素よりもエネルギーレベルが高い。二酸化炭素は、葉緑素の働きで光のエネルギーを吸収し、エネルギーレベルの高い物質、すなわちブドウ糖に変じたのである。ブドウ糖は、エネルギーレベルが高いのであるから、高圧の水みたいなもので、コックを開けばたちまちエネルギーを放出して、エネルギーレベルの低い二酸化炭素になってしまう。そして、コックを開く役割を負うのは酸素である。
動物でも植物でも、すべての活動はエネルギーを要求する。ブドウ糖は、植物の体内でも酸化して、必要なエネルギーを発生しているのである。
エネルギーレベルといえば、それの高いのはブドウ糖ばかりでなく、三大栄養素のすべてが高い。われわれの体内でエネルギーが要求されるとき、最初にそれを提供するのは脂質、次に糖質、最後がタンパク質である。この場合、脂質は脂肪酸の形のものだ。マラソンのような重労働をすれば脂肪酸の大量消費がおき、皮下脂肪は減少せざるをえない。
糖質、脂質などCHOが燃えるとき、二酸化炭素と水とが発生することは、すでに述べた。われわれがエネルギーをつくるとき、その結果として水がでてくるのである。
汗をかきかき走っても、かならずしも水の補給を考えずにすむのはそのためである。
100gの脂質の酸化では107gの水ができ、100gの糖質からは55gの、100gのタンパク質からは41gの水ができる。動物のなかまには水を飲まないものがいるが、体表からの水の蒸散をおさえる構造の皮膚の持ち主ならば、必要な水は食物から得られるのである。
 
【第一義的なもの=プロテイン】
さて、タンパク質という名の栄養素と最初に取り組んだのは、オランダのゲラルド・ムルダーであった。
1838年、彼はさまざまな食品を分析しているうちに、卵白、牛乳のカゼイン、小麦粉のグルテン、骨のゼラチンなど、外見上はまったくちがって見える物質の化学的組成が、よく似ていることを発見した。CHONの四元素、すなわち、炭素、水素、酸素、窒素の比がほぼ一定している事実をみつけたのである。同時にまた、これらが硫黄やリンをふくむことを知った。
要するに、これらの物質は、糖質や脂質とは別の栄養素であることが、化学的組成の面から明らかになったわけである。
これらの物質の共通点は、ほかにもあった。それらはいずれも苛性ソーダのうすい溶液によくとける。そして、そこに酢酸を加えると沈殿する。
このように、化学的性質に共通点があるところから、ムルダーは、これらの物質を一括して扱うべきものと考え、それに「プロテイン」という名をつけた。
プロテインは、ギリシャ語で“第一義的なもの”を意味するプロテイオスをもじったことばである。
プロテインの訳語が蛋白質であるが、蛋は卵の意味であるから、卵白質としてもよいところだろう。
ムルダーが、タンパク質を第一義的なもの、と考えた根拠は、これが細胞の内容物、すなわち原形質の実体であると見えたからであろう。
資本論の成立の作業のなかでマルクスと協力したエンゲルスは、生命はタンパク質の存在の一形態である、というような意味のことを書いている。
これは卓見であったが、ムルダーの認識とかさなるものであろう。今日では、タンパク質が生命の実体であることは常識だ。
成人では、体重の55~65%が水、残りの70~80%がタンパク質である。
動物という生物をつくる物質として、最初に注目されたのはゼラチンであろう。1679年、フランスのドニ・パパンは、自分の発明した圧力釜で、筋肉、骨、神経、爪、毛などを煮て、そこから褐色の液を得た。それは冷やすとかたまった。ゼラチンだ。ここから、動物体の組織は、ゼラチンにいろいろな割合で水が結合したもの、とされた。
ところで、ムルダーがタンパク質とした物質は、どれも純粋な化学物質ではない。多くの化学者が、これらの単離の作業に従事した。
要するに、化学的な特性のちがうものを分離してゆくわけだ。
卵白からは、水溶性タンパクとして「アルブミン」が分離された。英語では卵白のことをアルブメンというが、アルブミンはそれをもじったことばだ。
眼球からは、うすい塩類の液にとける「グロブリン」が分離された。グローブは眼球を意味する英語である。
大豆は塩類をふくんでいるので、これに水を加えると、うすい塩類の溶液ができ、それにとけるグロブリンがでてくる。
豆腐のタンパク質は、主としてグロブリン、ということがわかる。
その後、アルブミンにも種類があり、グロブリンにも種類がある、ということがわかって、タンパク質はこまかく分類されるようになった。
しかし、栄養素の一つとしてタンパク質を見る場合、その分類はあまり大きな意味をもたない。われわれのタンパク質に対する着眼点は、もっとほかになければならないのである。

【三石巌 高タンパク健康法(絶版)P40~47より抜粋】

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