活性酸素の発生源-1

三石巌:全業績17、老化への挑戦、より

 活性酸素はエネルギー代謝の過程で発生する。ということは人間が生きているかぎり、全細胞で活性酸素が発生しているということだ。これを気にするならば、スポーツどころか、筋肉労働もひかえたほうがよいことになる。それでもなお基礎代謝に必要なエネルギーをつくらないわけにはいかないから、完全な逃げ道はないわけだ。活性酸素と縁を切るには死ぬしかないわけである。
 エネルギーつくりの器官は、こ承知のとおり、ミトコンドリアという小器官で、ほとんどすべての細胞内にちらばっている。このものが外界、つまり細胞質からとりいれる直接のエネルギー源は、例のアセチルコエンザイムA(アセチルCoA)である。ミトコンドリアはこれを材料にしてATPをつくる。ATPとは、すべての生物に共通なエネルギー通貨である。われわれの使うエネルギーは、ATPの形になっていなければならないのだ。
 ミトコンドリア内に、ATP産生系は二つあって、効率の高いのが電子伝達系である。この系には、ミトコンドリア内の代謝で生じた水素の電子が導入される。
 われわれは、エネルギー発生装置として、水力発電所を知っている。これの最も素朴な形は、滝となって落下する水の力で水車をまわし、これによって発電機を回転させるものである。もし、滝の落差が大きく、水車がきゃしゃであれば、滝を何段かにカットし、それぞれの段に水車を設けるのがよい。電子伝達系は、このような水伝達系にたとえられる。ただし、電子伝達系では電子が水の役目をはたし、ATPが発生電力に相当する。
 電子伝達系には、少なくとも7種の「電子受容体」がならんでいて電子を受け取るしくみになっている。これらはまた、受け取った電子を放出する「電子供与体」でもある。この電子受容供与体の分子は、電子を受け取って放出し、電子を玉送りゲームのように、そして、段々滝をおりる水のように、先へ先へと送ってゆく。電子は、一つ送られるたびにエネルギーを放出する。それがATP分子の形になって放り出されるのである。落下する水に木造の水車をかけたような素朴な水伝達系では、しぶきが飛ぶ。これは、電子伝達系において電子がもれる現象に相当する。この電子は、そばにいる酸素分子にとらえられてスーパーオキサイドになる。ミトコンドリアにはマンガンSODが存在するから、これが働いて、スーパーオキサイドを過酸化水素に変える。これがカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼによって、ただの水と酸素になってしまうことは覚えておいでのはずだ。そしてまた、これらの活性酸素除去酵素が、活性酸素を完全に処理できないとき、困った事態が生じることをご存じのはずだ。
 電子伝達系において、電子しぶきが多くなればスーパーオキサイドの発生量も多くなる。パラコートやLAS系中性洗剤にはこのような作用がある。そのためにこれをスーパーオキサイド増産剤というのである。このような薬剤は、量によっては致死的であるって、中性洗剤による死亡事故が報道されたことがあった。
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電子伝達系を7段の水車に喩えてあり、わかりやすい。
われわれが呼吸によって取り込んだ酸素は、電子伝達系でのATP合成に用いられている。
詳しく記すと、ミトコンドリア内膜上を電子が走り、ミトコンドリア内の水素イオン(H+)を膜外へ汲み出す。
その電位差を利用しタービンを回してATPを得る。
この時、一部の電子がミトコンドリア膜からこぼれ落ち、酸素と結合し、スーパーオキサイドになる。
こぼれ落ちる電子は2~3%といわれている。
スーパーオキサイドは、Mn-SoD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼにより処理される。
もし処理できなければ、ミトコンドリア膜の不飽和脂肪酸が酸化され、脂肪酸ラジカルを生じ、ATP産生機能を失ってしまう。

なお、ミトコンドリア内ではMn-SOD、ミトコンドリア外細胞内ではCu・Zn-SOD。

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