北里大学の山田悟先生、”ケトン体は良いものだ”と認めちゃいました

私の考察:ケトン体に対する学会の見方が変わる

 昨年報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の心血管イベント抑制効果は、米国臨床内分泌医会/米国内分泌学会の合同アルゴリズムにおけるSGLT2阻害薬の立ち位置を大きく上げた(関連記事)。現在、さまざまな薬物療法アルゴリズムで第一選択とされているメトホルミンには、ここまで短期間での死亡率抑制効果、腎症予防効果は示されていない。今回の腎症予防効果の報告によって、今後、さらにSGLT2阻害薬の立ち位置が向上する可能性がある。

 そして、今回のDiabetes Careに掲載されたFerranniniらやMudaliarらの仮説は、正直、EMPA-REG OUTCOME試験の結果そのものに勝るとも劣らぬ驚きがあった。これまで、少なくとも内分泌・代謝学領域では、ケトン体がなんの懸念も要らぬ有益なものであるという理解は少数意見であり、有害である可能性が高いとされることが多かった。実際、米国臨床内分泌医会/米国内分泌学会の合同声明にあるように、「ケトン体は必ずしも有害とは言いきれない(not necessarily harmful)」というのが一般的な理解である。

 私自身も、脳細胞への有益性ははっきりしているにしても〔てんかん(J Neurochem 2012;121:28-35)、認知症(Metabolism 2015;64:S51-57)、頭部外傷(J Lipid Res 2014;55:2450-2457)〕、血管内皮への有害性を否定できない(Epilepsy Curr 2014;14:343-344、Cell Physiol Biochem 2015;35:364-373)ので避けるべきと考えていた。しかし、そうした血管への影響は可逆的であるとの報告もあり(Eur J Paediatr Neurol 2014;18:489-494)、最近では、専門家の監視下(Epilepsia 2009;50:304-317)であればケトン産生食は安全に実施可能との報告もある(High Blood Press Cardiovasc Prev 2015;22:389-394)。また、以前、私が恐れていたケトン産生食によるケトアシドーシスの発生(N Engl J Med 2006;354:97-98)は、SGLT2阻害薬使用下でのケトアシドーシスの発生頻度から考えると、おそらくケトン体代謝に関わる遺伝子異常を持つ症例に限定されると考えざるをえない。よって、そこまで恐れる必要はないであろう。

 そして、今回、米国糖尿病学会(ADA)の機関誌であるDiabetes Careにおいて、「ケトン体のおかげで臓器保護効果・死亡率低減効果が発揮された」という仮説が提示されたのである。ADAが機関誌にこの仮説の掲載を許可したということは、これからケトン体に対する学会全体の見方が変わっていくことを示唆する。

 以前にも感じたことであるが(関連記事;N Engl J Med 2014;371:1900-1907)、まさにこれからの栄養学は、ケトン体代謝についての真摯な研究を求めていると思う(Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 2004;70:309-319、Int J Environ Res Public Health 2014;11:2092-2107、Diabetes Res Clin Pract 2014;106:173-181)。EMPA-REG OUTCOMEが切り開いたのは、これからの新しい糖尿病薬物療法の在り方と、そしてこれからの栄養学だと思う。