鉄(Fe)について、基礎的な知識、治療の実際、臨床症状

1.基礎的な知識
植物性非ヘム鉄(Fe+++)の吸収率は1ー5%、動物性ヘム鉄(Fe++)の吸収率は10-20%
フェリチン<30 は鉄不足で、積極的な治療対象(貧血の有無とは関わりなし)
月経のある女性の大多数が鉄不足、特に出産後に悪化(子どもに鉄が移行)
 菜食主義者、炭水化物依存症では特に顕著
多くの症例では蛋白不足(BUN<10)も併せ持つ
フェジン静注は重度の鉄不足時に最初の一回のみ行う、頻回投与は猛毒のヒドロキシラジカルを生じ寿命を縮める
生体内スカベンジャーであるカタラーゼの必須元素
脳内モノアミン代謝の補酵素
フェルム1T/day、フェロミア、フェログラデュメットは効果が強いが消化器症状での脱落が多い 
フェルムが飲めない場合は当帰芍薬散
 目標はフェリチン100、3-6ヶ月後に再検
ビタミンEは鉄吸収を妨げるため8時間は空ける
お茶やコーヒーは鉄吸収を妨げるため1時間は空ける
玄米食ではフィチン酸により鉄、亜鉛の吸収が阻害される
ビタミンCを併用すると吸収率が上がる

2.鉄剤による治療の実際
教科書的には鉄が過剰だと細胞毒になると記載されている
鉄の過剰は、遊離鉄の過剰とフェリチンの異常高値に分けられる
鉄剤投与には、静脈注射と経口投与を分けて考える必要性がある

2-1.静脈注射
鉄剤(フェジン)静脈注射は、タンパクに結合していない遊離鉄を投与するため、過剰な投与はフェントン反応を引き起こす
産婦人科で妊婦に頻回にフェジン静注することは、遊離鉄過剰となり寿命を縮める行為

フェントン反応:
過酸化水素が、細胞中の鉄イオン(Fe2+)や銅イオン(Cu1+)などの触媒作用で、ヒドロキシルラジカル(HO・)に変化する反応
  Fe2++H2O2 →Fe3++HO- +HO・
ヒドロキシラジカルは最強(最悪)の活性酸素で、DNA、細胞膜、ミトコンドリアを酸化し、細胞を傷つけがんの原因となり得る

2-2.経口投与
 鉄剤経口投与は必要量だけトランスフェリンと結合し、吸収される
 鉄剤経口投与による遊離鉄過剰は理論的にあり得ない
 鉄過剰症の判断はフェリチン値
 鉄経口投与で過剰症にはなりにくい(溝口徹先生の講演資料ではほぼならないと記載)

欧米の基準ではフェリチン100以下は鉄不足
 欧米では鉄不足は少ない様子、アメリカの栄養療法の本でも、亜鉛不足、マグネシウム不足、ヨウ素不足、リチウム不足、の次に鉄不足が記載されていた
→肉食が主体の欧米では、ベジタリアン以外は鉄不足にならない
  魚介類摂取が少ないため、亜鉛、マグネシウムが不足しやすい
  鉄不足より鉄過剰への言及が多い

日本人では、
 男性のフェリチン平均は100-300
 新生児のフェリチン200-300
 日本の15-50歳女性の80%はフェリチン30以下(当院データ)
 一回の妊娠出産でフェリチンは50低下する
→鉄過剰への必要以上の懸念により、鉄不足の患者の存在が見逃されている

2-3.当院での評価ーフェリチンと鉄剤投与ー
今まで数百例に鉄剤を投与(99%は女性、そのうち大多数は15-50歳)
 鉄過剰例は1例もなし
 鉄剤を長く続けてもフェリチン100まで届く症例はほぼ皆無で、大多数の女性は40-60で頭打ちになる
 今まで、60-80で鉄剤は中止していたが今後は100まで継続予定
いくら鉄剤を続けてもフェリチン30を超えない症例も多い
つまり、月経での排泄が、食事+鉄剤での摂取を上回る症例がある
 =先天的に鉄吸収率が低い患者がいる
 
3.鉄欠乏の臨床症状
「いらいらしやすい、集中力低下」
「神経過敏、些細なことが気になる」
立ちくらみ、めまい、耳鳴り
偏頭痛
疲れ、節々の痛み(関節、、筋肉)、腰痛
喉の違和感(喉が詰まる)
冷え性
朝なかなか起きられない
出血(アザ)
コラーゲン劣化(肌、髪、爪、シミ)、ニキビ、肌荒れ
不妊
レストレスレッグス症候群(むずむず足症候群、RLS)
氷を食べる~これは非常に多い!
土を食べる

上記症状を訴えて精神科を受診すると、うつ病(朝起きられない)、パニック障害(喉の詰まり)、不安障害(神経過敏)、等と診断される
女子中高生だと、不登校(朝起きられない)、境界性人格障害(神経過敏で切れる)、等と診断される

パニック障害の大多数は、鉄タンパク不足、もしくは機能性低血糖が原因
女性のうつ病の大多数は、鉄タンパク不足が原因
女性の不登校、境界性人格障害の大多数も、鉄タンパク不足+機能性低血糖