読書感想文/辻村深月『鍵のない夢を見る』 微妙にズレている5人の女性たち | たろの超趣味的雑文日記〜本と映画と音楽とBABYMETALその他諸々

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辻村深月の短編集『鍵のない夢を見る』(文春文庫,2015年)を読了。辻村作品ランダム読書11作目。第143回直木賞受賞作である。

 

 

内容紹介(本書の表4より)

どうして私にはこんな男しか寄ってこないのだろう? 放火現場で再会したのは合コンで知り合った冴えない男。彼は私と再会するために火を?(「石蕗南地区の放火」)夢ばかり追う恋人に心をすり減らす女性教師を待つ破滅(「芹葉大学の夢と殺人」)他、地方の町でささやかな夢を見る女たちの暗転を描き絶賛を浴びた直木賞受賞作。

 

5篇の物語の主人公はいずれも女性。彼女たちの思考回路が常軌を逸していて怖い。彼女たちは突拍子のない奇人変人ではないし,明らかな異常者でもない。一見すると実に普通の女性たちなのだが,何かがその「普通」からちょっとずつズレていて,自ら不幸に突進していくタイプのように見えるのだ。そのズレ具合が絶妙で,とても説得力とリアリティがある。

 

性差を持ち出して語ることは筋違いなのかもしれないが,5人の女性たちの考え方や行動は男性の私にはなかなか理解できないし,彼女たちが体験することになる出来事もまた同様だ。同じような境遇にあったら,世の女性たちはここに描かれている主人公たちような行動をとるのだろうか。あるいは、あくまでもフィクションとはいえ,5人の女性たちに共感するのだろうか。ふとそんなことを考えてしまった。

 

5篇ともあまりにも濃すぎる物語で読後感は「強烈」のひと言に尽きる。いわゆる「イヤミス」の読後感とでも言おうか。ただし最後の「君本家の誘拐」は他の4篇とはかなり毛色が異なると思う。ワンオペ育児に追われて疲弊していく主人公の姿は痛々しく,フィクションと呼ぶにはあまりにもリアルで切実だ。もはやミステリーという枠組みを超越しており,現実の社会における育児に関する問題提起とも読める。世の男性は必読であろう。