辻村深月の『島はぼくらと』(講談社文庫,2016年)を読了。
表4に載っている「あらすじ」は次の通り。
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
辻村深月作品ランダム読書9作目。前回読んだ『凍りのくじら』も辻村作品にしてはテイストが異なると感じたが,今回の『島はぼくらと』の作風もまた一味違うと感じた。
登場人物の深い心理描写はいつもの辻村作品通り。一人ひとりがしっかりと「自分の物語」を背負っているので,群像劇的な厚みがあるのが特徴だ。
一方で,過疎化が進む孤島に暮らす四人の高校生の青春冒険譚という趣向のストーリーは,どちらかというとシリアスで不思議なミステリー系作品が多い辻村深月にしては珍しい気がする。系統としては『この夏の星を見る』に近いかもしれない。
ただし,読む者の心を大きく揺さぶるという点では「らしさ全開」と言える。「幻の脚本」にまつわる謎が解き明かされていく終盤の展開は特に感動的。そしてその脚本の未来の託され方は希望に満ちあふれており,とてもドラマティックで思わず涙腺が緩む。前向きに生きていこうというポジティブな気持ちにさせてくれる作品だ。