読書感想文(ちょい辛)/逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』 | たろの超趣味的雑文日記〜本と映画と音楽とBABYMETALその他諸々

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逢坂冬馬の『歌われなかった海賊へ』(早川書房,2023年10月)を読了。

 

 

デビュー作『同志少女よ、敵を撃て』が2022年の「本屋大賞」を受賞した逢坂冬馬待望の2作目。ものすごく期待していたので,丸善書店日本橋店でサイン本を買ってしまった。しかも著者が同店を訪れた当日に。ちなみに私が文芸書のサイン本を購入したのは今回が人生初である。

 


 

読み終えた直後の率直な感想は,ちょっと微妙なものだった。両手を挙げて「面白かった!」と言うわけにはいかず……。『同志少女よ、敵を撃て』が私の好みと感性にマッチしていてとても面白かったので,『歌われなかった海賊へ』に期待しすぎていたのかもしれない。やや物足りなさを感じてしまった(特に前半が退屈だった)。

 

このモヤモヤの原因は何だろうと考えてみたのだが,それはおそらくキャラ設定の弱さにあるのかもしれない。『同志少女よ~』はとにかくキャラが立っていた。登場人物たちの会話のノリを含めてライトノベルっぽさがあり,それが同作の魅力の一つだった。シスターフットを強く感じさせる彼女たちの友情・連帯も同様だ。それに比べて『歌われなかった~』の登場人物は,やや地味だと言わざるを得ない。友情や愛情を強く感じさせる場面は多くはなく,今時の多様性を意識したと思しき同性愛も取り上げられてはいるものの,それが重要なテーマになることはない。

 

主人公たちの行動や彼らが置かれた環境にも差があると思う。『同志少女よ~』はまず「女性兵士だけの狙撃手部隊」という部隊の存在そのものが異色で,苛烈な任務を背負った彼女たちが様々な苦悩や葛藤を抱えながら戦い抜き,生き抜く様は壮絶のひと言に尽きる。

 

一方で『歌われなかった~』のエーデルヴァイス海賊団はナチス統治下のドイツ国内でレジスタンス運動を展開するわけだが,物語中盤でのトンネル爆破ミッション以降の濃密なエピソードは例外として,それまでの前半部分では海賊団の活動は総じて生ぬるく感じられた(だから退屈だった)。後半はなかなかドラマティックな展開を見せるだけに,なおのこと前半のダラダラはもったいない。

 

また,これは完全に好みの問題なのだろうが,所々で差し挟ま「史実を解説する風の文章」がくどいと感じた。

 

キャラクターの性格づけを強めにして個性を押し出した上で,ストーリーをシリアス路線ないしエンタメ路線に思いっきり振り切っていたら,もっと違った読後感になったかもしれない。

 

何だか非常にネガティブで辛口な感想になってしまったが,「面白いか,面白くないか」と問われたら,素直に「面白い」と即答できる作品であることは事実だ。私が勝手に過剰な期待を寄せてしまったばかりに,その反動で勝手に肩透かしを食ってしまっただけである。ウクライナ問題やパレスチナ問題をはじめ,混迷を極める今の時代や世相に対する著者なりの見解(というか叫びのようなもの)も色濃く反映されており,単なるフィクションとして片付けてしまうわけにはいかない「重み」を持った小説だと思う。少し時間をおいてから再読したら,たぶん最初に読んだときとは違った感想を持つだろうという気がする。

 

気が早すぎるが,“逢坂冬馬の3作目”にも,もちろん期待している。

 

◯参考:読書感想文/「同志少女よ、敵を撃て」女性狙撃兵の人生を通して戦争の意味を問う