「食欲人」(デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン)
原題は「EAT LIKE THE ANIMALS」
野生動物から粘菌まで、あらゆる生物は複数の食欲を利用した栄養バランシング機能を有し、最適な栄養比率で食事をする方法を本能的に知っている。
一方で人間は、火の利用、道具(石器)の発明、狩猟採集から農耕への転換、食品加工技術の発達、食糧生産の工業化、流通のグローバル化、などによって、みずからの食環境を段階的に変化させてきた。
その結果、おいしくて便利で安価な食べ物をいつでも食べることができるようになったが、不健康な工業食品が健康的な伝統的食事に取って代わりつつある。
すべての生物に共通するのは「最優先される食欲=タンパク質欲」。
しかし、タンパク質比率が低下する方向に現代の食環境が変化。そして、タンパク質欲を満たそうとする結果、脂肪と炭水化物を過剰摂取している。
結論としての具体的食事法は、他の本と大差ないのだが、今まで読んだ食事系の本の中で、もっとも知的で、もっとも原理的で、食事について深いところから考えることができるようになった。
以下、備忘
◇主要栄養素
・タンパク質
体内のあらゆるものの原料「窒素」を含む
窒素はホルモン、酵素、DNAなど体内のあらゆる重要なものをつくる物質
・脂肪
すべての細胞を包む「膜」をつくる
寒さから守り、ビタミンを貯蔵し、肌を潤し、眼球や関節を衝撃から保護する
・炭水化物
エネルギー源であり、DNAにもなる
糖類、デンプン、食物繊維に分類される
◇微量栄養素
・ビタミン、ミネラルは「電流」
バッタの実験
高炭水化物食のバッタは、タンパク質ターゲットを達成するまで餌を食べ続け、炭水化物を過剰摂取し、肥満になり、発達が遅れた。
低炭水化物食のバッタは、タンパク質ターゲットを達成すると餌を食べなくなり、やせすぎでエネルギー不足となり、成虫まで生き延びる可能性が低かった。
・栄養で最優先されるのはタンパク質
・偏った食餌では成長と生存が犠牲に
タンパク質と炭水化物の比率をさまざまに変えた餌をつくり、そのうち2種類をバッタに与える実験では、すべてのケースで、まったく同じ比率でタンパク質と炭水化物を摂取した。
・食物の選択肢がある場合、バッタは正確に適切なバランスの食餌を摂取可能
・バッタにはタンパク質と炭水化物の2つの食欲システムが存在(競争に勝つのはタンパク質欲)
人間の食欲は「5種類」
・タンパク質
・炭水化物
・脂肪
・ナトリウム(塩)
・カルシウム
人間の場合もタンパク質ファースト。
タンパク質が欠乏する世界で、人間はタンパク質のターゲットを達成するために炭水化物と脂肪を過剰摂取し、肥満のリスクを負っている。
もったいないから食べる、というのも人間ならでは。
余剰カロリーのほとんどは、食事量の増加ではなく、間食。
甘い糸としょっぱい系のスナックを提供した実験では、増加したカロリーのほぼすべてがしょっぱい系から摂取されていた。
ショウジョウバエの実験
「低タンパク質/高炭水化物」がもっとも長生き
「高タンパク質/低炭水化物」は早死
「高めのタンパク質/低めの炭水化物」が最も多くの卵を産んだ
マウスの実験
「低タンパク質/高炭水化物」が長生き
「低タンパク質/高脂肪食」は「低タンパク質/高炭水化物」ほどの長寿メリットなし
「高タンパク質食」は繁殖には有利
「長寿経路」と「成長・繁殖経路」
長寿経路・・・状況が好転するまでじっと待て
成長・繁殖経路・・・チャンスを逃すな、あとは野となれ山となれ(たくさん産んだら死んでいい)
食料と栄養が不足すると長寿経路が作動、細胞とDNAの修復・維持システムが活性化し、食料が豊富になり繁殖の目的を果たせるようになるまでの間、健康を維持する
断食は長生きに有効
超長寿地域、沖縄の例
タンパク質比率わずか9%、炭水化物85%、脂肪わずか6%。かつ、食物繊維含有率が高いため肥満とは無縁。
食品メーカーはタンパク質を減らしている
不健康な食品をたくさん売るのに都合の良い作戦。意図的かどうかはともかく低タンパク質食品が増え、私たちはそれに反応して食べる量を増やしている。
食物繊維は食欲のブレーキに
リンゴ4個は食べられないが、リンゴ4個分のジュース(グラス約1杯半)は簡単に飲める
タンパク質をケチれば製造原価が安くなる
繊維が少ない食材はおいしい
二酸化炭素が増えて食べ物の中のタンパク質が減った
二酸化炭素が増えれば増えるほど光合成が盛んになって糖とデンプンの合成が促され、その結果タンパク質、微量栄養素、繊維が薄まる。
40-65歳の中年期は、タンパク質を少なめ(10-15%)、炭水化物を多め、脂肪ほどほど、の食事によって、健康を促し、老化のプロセスを遅らせることができる。
65歳以降の老年は、身体がタンパク質を効率的に保持できなくなるため、もう一度タンパク質を多め(18-20%)にするとよい。
■教訓
①自分の「タンパク質ターゲット」を理解する
1.1日の必要カロリーを推定(ハリス・ベネディクト法)
2.タンパク質摂取ターゲットを推定(1日の必要カロリー×下記係数)
子ども、青少年:15%、18-30歳:18%、妊婦:20%、30代:17%、40-65歳:15%、老年:20%
3.1日に接種すべきタンパク質のグラム数を算出(2の数値÷4)※タンパク質1gは4kcalに相当
自分の場合
1.1300kcal 2.195kcal 3.49g
②「超加工食品」を避ける
③「高タンパク質食品」を食べる
多種多様な動物性食品(鶏肉、肉、魚、卵、乳製品)および植物性食品(種、ナッツ、豆)の中から高タンパク質食品を選ぶ
④「繊維」を食べる
葉物野菜、非デンプン質の野菜、果物、種子、全粒穀物
⑤「カロリー」信奉をやめる
⑥食べ物を「混ぜ物」にしない
加える塩や砂糖は控えめに
⑦「空腹」のときに食べる
食後・食間は食べない
⑧「塩味」がほしいことの意味を知る
ニセのタンパク質(超加工食品のしょっぱい系のスナックなど)の誘惑に屈せず、良質のタンパク質を食べる。
⑨「食欲」を感じる
必要と感じる以上のタンパク質を摂らない。
⑩運動時は「20~30g」タンパク質を摂る
⑪睡眠を利用して「食べない時間」を1日の中につくる
細胞とDNAの修復・維持を促すために、夜間は断食し、間食を控えよう。
食事を抜かなくても、1日のうちの食べる時間を制限するだけでも効果があり。
⑫「体内時計」に合わせて食べ、寝る
⑬こもらず「外」に出る
身体活動と社会交流は、健康増進と長寿と明らかな相関関係あり。
⑭つくってみる
大好きな料理を自分でつくれるようにする。
⑮「流行り」に惑わされない