「文明崩壊 上」★★★★★ | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「文明崩壊 上」(ジャレド・ダイヤモンド)
 
ジャレド・ダイヤモンド氏の本を読んだのは、「銃・病原菌・鉄」に続いて2作目。

「銃・病原菌・鉄」が代表作だと思っていたのだが、本書も予想以上に面白かった。「銃・病原菌・鉄」よりこちらの方がよかったかもしれないレベル。

イースター島やマヤ文明の栄枯盛衰の物語を純粋に楽しめるうえ、環境問題や人口問題や社会問題のアカデミックな考察が広く深く展開され、最上の贅沢な知的エンターテインメント(あるいは知的ミステリー)という印象だ。



以下、備忘



■文明崩壊パターンの共通点

農業の生産性向上や運よく適切な気候に恵まれ豊年が続いたりすると人口が増加。人口増加で文明が発達する一方、人口増加は自給自足のハードルを上げる。凶年が続いたり、森林(木材)が減少したり、気候変動に加えて、人為的な環境悪化(森林伐採による土壌劣化や乱獲による再生能力の低下)が重なると、増えた人口を支えられなくなる。破壊された環境の再生が飢餓の進行に追いつかず、文明崩壊を招く。



■イースター島

900年ころポリネシアから入植し定住始まる。その後600年くらいで文明がピークを迎え、そこから200年くらいで崩壊。

人口増加で森林伐採が進行。木材の用途は住居、船、薪(防寒や調理用)、石像の運搬、など。
イースター島の気象条件的に木の生長遅く、人口増加による環境破壊(森林伐採)が自然の再生スピードを上回る。
1400年頃、ヤシの木が姿を消す。土壌侵食進み、農業の生産性低下。
木材不足で船(特に航海に耐えられる大型のカヌー)がつくれなくなり漁獲量も減少。
1600年頃から人口激減、飢餓の始まり。
生活が苦しい中でも、権力・威光の競争で石像はつくられ続けた(モアイの倒し合いも)。
島民同士の紛争、人肉食、など生存争いは過酷に。
1700年ころには実質的に島での生活崩壊。



■ノルウェー領グリーンランド

入植から450年存続(1000年ころ~1500年ころ)

入植者消滅の要因
・ノルウェー人入植者自身による環境侵害
・気候変動
・ノルウェー本国との友好的な接触の減少
・イヌイットとの敵対的な接触の増大
・ノルウェー人自身の保守的な世界観

放牧地を作るため森林を燃やして開墾。木材や薪の確保のためにも樹木を切り倒した。 
このため、森林破壊、土壌侵食、芝土の不足、などの悪影響が出た。
鉄の製造に必要な木炭も不足し、鉄製の道具を作れなくなった。

気候に合わない家畜(ウシ)を飼い続けた(ウシ、ヒツジ、ヤギの乳製品を主な食材にした)。
アザラシやクジラを食べようとしなかった(イヌイットには狩猟技術と食習慣があった)。
1400年ころを最後にノルウェーからの接触がなくなった。

“われわれはヨーロッパ人だ”という意識に固執することが、事態の深刻化を招く場合もあった。例えば、グリーンランドの気候下で頑強にウシを飼い続けたこと。夏の飼い葉の収穫に当てるべき人手を、北の狩場の狩猟に振り向けたこと。イヌイットの技術の中から役立つ機能を採り入れようとせず、その結果、死に至る飢餓に見舞われたこと。

アイスランドはグリーンランドと環境に大差ないが、ヨーロッパから近いため交流があった、敵対する先住民がいなかった、などの違いから定住が続いた。