「起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」(大西康之)
 
 
リクルートという会社についてはある程度知っているが、その会社を作った江副浩正氏は、自分にとってはミステリアスな人物であり(自分が社会人になったころにはすでにリクルート事件の渦中の人だった)、時価総額8兆円にまでなった会社を作った起業家の経営思想や数奇な人生にはずっと興味があった。

本書はまず、ノンフィクションの読み物として非常に面白い(懐かしい経営者・政治家の大物も多数登場)。そして、会社経営や事業戦略の教材としても良い本だ。

江副氏は、需要者と供給者をマッチングさせるプラットフォームビジネスの先見性について、とりわけ評価されている。しかしながら、当時そのアイディアに気づいていた人は、世界中に(日本にも)いくらでもいたのではないかと推測する(実際、アメリカに先進事例があった)。

江副氏が評価されるべきは、その先見性もさることながら、そのアイディアを猛烈なパワーで実行し、事業として成功させ、サステイナブルな成長企業につなげたことだと思う。

すごいな、と思う施策例は、優秀な人材獲得に年間60億円超かけた「狂気の」採用、1968年時点でコンピュータに巨額投資、社員のモチベーションを引き出すPC制度、など。リクルートから多数の起業家が輩出されているのも、江副氏の功績と考えていいのではないか。※参照:「リクルートのDNA」


アイディア、経営思想、云々という次元の前に、江副氏はとにかく野心と嗅覚と行動力が突出していた人だと思う。そういう人物は(違法なことをしていなくても)、秩序・慣習を重んじる日本では「いかがわしい」「暴走」と映ってしまう。

“「リクルート事件」を起こしてしまったのは、当時の日本に洗練された投資家がいなかったから” という著者の指摘はとても的を射ていると思う。

(いい意味で)「いかがわしい」イノベーターが、健全にかつ大いに活躍できる社会になれば、と望むばかりだ。
 
 
 
以下、備忘
 
 
 
大学を出てすぐ会社を作った(会社員経験のない)江副氏は、ピーター・ドラッカーの本から、経営者とは何か、経営者なら何をすべきかを懸命に学び、純粋に実行。リクルートは「ファクトとロジック」「財務諸表と経営戦略」の会社になった。
 
経営は常に目的合理的、資本主義そのもの、極めて科学的な会社になった。
 
 
 
「リクルート事件」を起こしてしまったのは、当時の日本に洗練された投資家がいなかったから。起業家はたいてい最初は「暴れ馬」。ちゃんとした競走馬に育てるには優れた調教師が欠かせない。アメリカで調教師や騎手の役目を果たしているのがエンジェル投資家。アップルにはマイク・マークラ、グーグルにはエリック・シュミットがいた。
 
 
 
リクルートが他のベンチャーと異なるのは、江副氏という強烈なキャラクターの創業者が去った後も、会社として成長し続けたところ。理論が好きな江副氏は創業メンバーと一緒に、会社が成長し続ける「仕組み」を作った。
 
 
 
江副氏の「君はどうしたいの?」の思想は、1974年、「拠点別部門別会計=PC制度」に落とし込まれる。ひとつの会社に独立採算の小集団が1600社ある状態、全社員が採算責任者。「社員皆経営者主義」と呼んだ。
 
 
 
情報誌のビジネス・モデルは朝日、読売、電通に富をもたらしたマスメディアの秩序を破壊、江副氏は憎まれ、敵を作った。
江副氏は、違法でなければ、既存の道徳律や慣習からはみ出ることを厭わない。知恵を絞って強敵を出し抜き打ちのめしたときに無上の喜びを感じる。だが、日本には手段を選ばずに勝つことを良しとしない儒教的な文化がある。
 
 
 
「『いかがわしい』という奴らには、言わせておいたらええ。君らはそのままでええんや。ええか、おまえら。もっといかがわしくなれ!」(リクルートの大株主となったダイエー・中内氏)
 
このスピーチで中内氏はリクルート社員の心を鷲掴みにした。
 
 
 
 
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
 
「君はどうしたいの? じゃあそれは君がやって」
 
言い出しっぺのカルチャーは若い社員たちに「圧倒的な当事者意識」を植え付けた。
 
 

 

 

会社の主役は一人ひとりの社員。