「ワークマンは 商品を変えずに売り場を変えただけで なぜ2倍売れたのか」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「ワークマンは 商品を変えずに売り場を変えただけで なぜ2倍売れたのか」(酒井大輔)
 
現在のワークマンの成功要因は、まずもってベイシアグループ創業者の土屋嘉雄氏が経営者として優秀で、作業服というブルーオーシャンに目をつけたところまでさかのぼらざるを得ないのではないか。
 
標準化などの超効率経営、機能性×低価格の商品開発力、というベースがあって、その上でさらに、情報活用や企画・アイディアのセンスのある商社出身の土屋哲雄氏が、ワークマンの潜在力を表面化させ爆発させたイメージだ。
 
実は、自分自身、まだワークマンの店に行ったことも商品を手にしたこともなく(世の中のトレンドに乗り遅れ関心が低かった…、そして近くに店がない)、実際にモノを見てみないとわからないところはあるものの、ワークマンの経営について予想以上に「共感度比率」が高い!というのが本書を読んでみての感想。キーワードを列挙すると以下の点。
 
・社員全員をデータに強くする
・データ分析はエクセルで十分
・AIに頼らず社員のアタマで考えさせる
・標準化(例外を作らない)
・値下げしない
・外部の力を活用する
・余計なことはしない
・とにかく競争を避ける
・無理をしない
 
 
プロ向けの商品からスタートし、そのクオリティを維持したうえで普及価格を実現し、しかし(おそらくプロ向けで市場が小さいので)競合の参入が(いまのところ)限定的で、まさに絵に描いたようなブルーオーシャンを謳歌しているように思える。
 
株価的にも話題的にも旬を過ぎた会社なのかもしれないが、自分としては「すごく面白い会社に巡りあった!」と(いまさらながら)テンションが高くなった。
 
商品が同じでも工夫次第で市場を創出できるという、いままで見たことがないような秀逸なマーケティング(あるいは経営そのもの)の教材となる会社ではないだろうか。今後の第2弾第3弾の展開が楽しみだ。
 
 
 
以下、備忘
 
 
1980年 1号店(53㎡)
1982年 3号店(132㎡)店舗標準化、FC化
1983年 10号店(198㎡)
2000年 K-1作戦(980円のニッカポッカPB商品大ヒット、当時の有名商品は4000-5000円)
2002年 500店
2012年 土屋哲雄氏入社 「やっぱり、土屋さんが来て会社が変わった」(八田氏)
2014年 中期業態変革ビジョン
(1)社員1人当たりの時価総額を上場小売企業でナンバーワンに
(2)新業態の開発 ①「顧客拡大」で新業態へ向かう ②「データ経営」で新業態を運営する準備をする
(3)5年で社員年収を100万円ベースアップ
2017年 800店
2018年 ワークマンプラス出店
 
 
 
超効率経営のDNA
 
ワークマン、スーパーのベイシア、ホームセンターのカインズ、を含めカインズグループは効率経営を貫き、すべてが優良企業。
そのDNAはオペレーションエクセレンシー(店舗運営能力が優れる)。店舗標準化、マニュアル化、余計なことはしない、例外は作らない。
 
ワークマンは、本部の商品をほぼ全て並べる(どれを並べるか選択の余地がない)、定価販売(値下げしない)、などコンビニ以上に標準化が進んでいる。
 
 
 
全社員がエクセルの達人
 
エクセルの定型的な分析ができれば十分。日々の販売データから異常値を発見したり、次の手を考えたりする力を身につける。突出したデータサイエンティストは必要ない。
実力のある社員は「分析チーム」に入り、標準正規分布などの統計基礎、需要予測に必要な指数、対数、多項式などを学ぶ。ここから、PB商品等の商品部やロジスティクス部など他部署に巣立ち、このサイクルを続けるうちに血液が体内を巡るように、どの部署にもデータに強い人材が行きわたる。
 
エクセルがいいのは、自分で考えるようになるから。AIにはプロセスがない(思考のプロセスがブラックボックス)。AIは大量のデータから相関関係を見つけることは得意だが、ビジネスで必要なのは因果関係を見極めること。
 
ワークマンのデータ活用の原則は『浅く広く』。知識の浅い分を衆知という広さで補う。皆で考えて進化させていく。それなら、むしろエクセルの方がいい。
 
 
善意型サプライチェーン
 
どれだけ納品するかをメーカーにすべて委ねる(小売り側が仕入れ数量を決めメーカーが生産するのとは真逆)。
理由は、メーカーの方が情報優位なため(担当者は小売り側以上にベテラン、他小売店との取引経験豊富)。メーカーが確実に売り切れると判断した数量を自主納品してもらう方が効率がいい。一方、ワークマンは社内データをすべてメーカーに開示。納品を全部任せて、全部引き取って、一切文句を言わない。メーカー担当者は責任を感じて、ワークマンの立場にたって最善の納品をしてくれる。
 
 
変身店舗
 
7:00~10:00ワークマン、10:00~16:30ワークマンプラス、16:30~20:00ワークマン
ワークマンとワークマンプラスの商品が同じであることをアピールすることが最大の狙い。
ワークマンプラスは外観、照明、陳列など見せ方を変えただけで大ヒットした、しかしワークマンでもワークマンプラスの商品が買えることが伝わっていない。これが伝われば、既存の通常のワークマン店の集客もさらに伸びるという考え。
 
 
競争しない
 
機能性×低価格はブルーオーシャン。
誰も気づいていなかった市場の隙間を見つけて、徹底的に攻め込む。作業服専門としては40年間も独走してきた。
とにかく競争したくない会社。負ける勝負はしない。競争して負けるくらいなら、最初から勝負しない方がましだとさえ考える。
『ユニクロアウトドア』や『ユニクロスポーツ』が現れたら撤退する。第2弾、第3弾はワークマンレディース、ワークマンシューズ、ワークマンレイン。
 
「ウルトラC」の奇策は、完全に一般客に特化した路面店。ワークマンとワークマンプラスは“同一店”といっていいが、これを完全に2店に分けるという考え方。
 
 
 
ワークマンが変えたこと
 
1.オペレーションエクセレンシーからプロダクトエクセレンシーのSPA企業へ
※PB比率は50%超に
 
2.「前例踏襲」の経営からなんでもデータを見て変えていく経営に
※「意見を変えるのが良い上司」。土屋氏自身、自分のやることの50%は間違えていると自認。
 
3.「本気の経営」――言ったことは必ずやるという、すごみを見せる
※土屋氏自身が商品を毎日着て出社、商品力は十分だとメッセージを送った。5年で100万円のベースアップも実現した。
 
4.トレードオフ経営――頑張る代わりに何かを捨てる
※時間をかけてもいい(いい仕事のためなら)。決算時に残業するなら決算発表を1週間遅らせばいい。
 
 
 
ワークマンが変えなかったこと
 
1.標準化経営
 
2.ローコスト経営 
※原価率目標65%、家賃の売上比率3%目標
 
3.やらないことが決まっている経営 
※接待や業界団体加入はしない、高い商品に手を出さない、海外展開しない(国内に空白市場)