「いつか、すべての子供たちに」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

★★★☆☆


アメリカでは、低所得地域と高所得地域の学力の格差は9歳の時点で3-4年にもなり、大学への進学率では7倍の格差がつくそうです。

TFA(Teach For America)は「いつか、この国のすべての子供たちに、優れた教育を受ける機会が与えられるように」というビジョンを掲げる教育NPOです。大学を卒業した若者に2年間、全国各地の教師をしてもらうというプログラムを実施しています。

Wikipediaによれば「プログラムが送り込んだ講師の評価はまずまず高く、またこのプログラムを終了した人材の優秀性も認められたことから、プログラムは特にエリート大学の学生に最初の就職先として大人気となっている」とのこと。

実際本書には、「2008年時点で2万5000人の応募者のうち3600人がTFA教師になっている」とあり、採用の倍率はかなり高いようです。

また、こちらのサイトの2009年の人気就職ランキングではTFAは10位に入っています。※下記に抜粋

Ranking 2009
1 Google
2 Walt Disney
3 Apple Computer
4 U.S. Department of State
5 FBI
6 Ernst & Young
7 Peace Corps
8 NASA
9 PwC
10 Teach for America
11 Central Intelligence Agency
12 Deloitte
13 Microsoft
14 American Cancer Society
15 Nike
16 Johnson & Johnson
17 Major League Baseball
18 KPMG
19 J.P. Morgan
20 Mayo Clinic
21 Goldman Sachs
22 U.S. Department of Energy
23 Coca-Cola
24 Centers for Disease Control
25 Procter & Gamble
26 BMW
27 Lockheed Martin Corporation
28 Sony
29 Boeing
30 General Electric





本書を読んでいて、再三このNPOのアイディアは素晴らしいと思いました。ただし、アイディアが素晴らしいだけでは事業は成功しません。資金集めと有能な組織作りに悪戦苦闘する様子が延々と書いてあります。

また、環境も重要です。NPOが発達している(寄付市場が発達している)アメリカだからうまくいったという部分はありそうです。そもそも、公立学校に優秀な教師が集まらない・十分な予算が配分されない、という問題の大きさがこのNPOの成功の背景でもあると思います。これは、いわゆる市場経済の負の側面です。優秀な学生は2年程度ならともかく、教師よりも投資銀行やコンサルティングファームなどに就職します。つまり、市場経済が進んだアメリカだからこそ成功したNPOともいえるのではないでしょうか。



日本ではアメリカほどの学力の格差は存在しないでしょう。しかし、昔に比べると学校の先生が尊敬されなくなっている、優秀な学生が教師に就職しなくなっている、という状況は多かれ少なかれ共通するのではないかと思います。

日本でTFA的な試みをするとすれば、学生よりも実績を上げた社会人(例えば投資銀行のバンカー)に短期でもいいので教師をやってもらうようなプログラムが子供にも先生にも刺激になっていいのではないかと思いました。日本は寄付市場も未熟なので、業績好調な企業に自腹を切らせる形で一定のルールに基づいて強制的に教師を派遣させてはどうでしょうか。




なお、本書によれば、子どもの学力向上に能力を発揮する教師は知識よりもリーダーシップに優れた人らしいです。目標を設定し、その目標に子供を導いていける教師が成果を上げているようです。






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