「アニマルスピリット」 | Jiro's memorandum

Jiro's memorandum

泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

★★★★★

面白い本でした。

アニマルスピリットとはケインズが「一般理論」で使った言葉で、そこでは「血気」と邦訳されている。しかし、アニマルには臆病で弱々しい動物も含まれる。アニマルスピリットは、そういう動物全般の合理的ではないもの(本能的なものと言っていいのではないか)を指している。ただ、野心的な意味合いが強い感じはする。

合理性とか市場効率性を前提としたマクロ経済理論には限界があり、アニマルスピリットを考慮しなければいけないという、いわゆる行動経済学とか心理経済学の本といえる。

本書では5つのアニマルスピリットを挙げている。安心、公平さ、腐敗と背信、貨幣錯覚、物語、の5つ。これらのアニマルスピリットで大不況やバブルなどの経済現象を説明していきます。なかなか、鮮やかです。

アニマルスピリットは経済へのプラス効果を増幅する一方、大混乱の原因にもなる。結論として、金融の分野をはじめ、政府がある程度ルールを設定する必要性を指摘している。

政府の役割と育児書のアドバイスが似ているという話に妙に納得した。厳しくしすぎるとティーンエイジになってから反抗するようになるが、甘やかしすぎると自制を学べない。アニマルスピリットを暴走させないよう制限をつけつつ、創造的に育つよう自由を与える、このバランスが大事だと。


追記

面白いと思った話を一つご紹介。事業――少なくとも成功事業――の原動力は、未来を創り出す興奮だ。というもの。

トヨタが自動車への参入を決めたとき、合理的に判断すればその決断を正当化できるような要素はなかったのだが、結局は自信過剰が成功をもたらした。GEのジャック・ウェルチも投資の判断は書類ではなく「気合い一発」だという考えを持っているそうだ。

「リスク」は数学的に計算できるが「不確実性」は測れない。事業が成功すると後からいろいろ成功要因を並べ立てるが実際は理詰めじゃないんだなと思う。 ※参考



◇目次

・安心さとその乗数
・公平さ
・腐敗と背信
・貨幣錯覚
・物語

・なぜ経済は不況に陥るのか?
・なぜ中央銀行は経済に対して (持つ場合には) 力を持つのか?
・なぜ仕事の見つからない人がいるのか?
・なぜインフレと失業はトレードオフ関係にあるのか?
・なぜ未来のための貯蓄はこれほどいい加減なのか?
・なぜ金融価格と企業投資はこんなに変動が激しいのか?
・なぜ不動産価格には周期性があるのか?
・なぜ黒人には特殊な貧困があるのか?
・結論



アニマルスピリット/ジョージ・A・アカロフ

¥2,310
Amazon.co.jp