(73) 夜、ひょっこり 妹が訪ねてきた。 | すずめがチュン

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アケノさんを取りまく風景をおとどけしてます。











2014/7/10 撮影

夫のマサアキさんが、思いがけない入院となって


 もう・・・ひと月、


挨拶もしないうちに、「どぉ?・・・・マサアキさん」


 と聞くと、


「うん、もう管も全部とれてね、ごはんも食べれるようになった、」


 と、少し明るい顔で応えると、


  奥にいたモアイさんにも、「兄さんありがとね」と言った。



ちょうど、夕飯の後片付けが終わったとこで、


  「もうすんだから、上いくけど、ゆっくりできる?」


「うん、大丈夫、」


 と、二階へ向かう,


 階段の途中で、待ちかねたように、妹は


「ねぇ、おにいちゃんの具合さ、ロケットさんがやって下さった


 あの時から、とたんに良くなったのよ!」


  「え、そうだったの!


   やっぱり、そうだったんだ!・・・・スゴイね!」


「すごいよねぇ!」


  「きっと、あの日から病院の上に、プラチナダイヤモンドゴールド太陽が


   輝いてたんだね」


「うん・・・・・、それにさ・・・・・脳梗塞っていわれてたのに


  そうじゃないみたい、」


  「え、じゃもうひとつの 脳炎の方ってこと?」


「そう、そっちだろうって、」


  「へ~~っ、あんなだったのに・・・・」


「ねぇ~っ!」


  「よかったねぇ、はっきりした診断が出て、・・・・これは、ネ


    宇宙医師団よ、きっと」


「私もそう思う、来てくれてたんだって」



ありがたいね~と、二人 口々に言いながら


 そのままベランダに出て、


しばらく無言で、空を眺めた。



そして、雲で星も見えない空に向かって、


 その奥にいらっしゃるであろう、宇宙の皆さんに感謝し、



ただ驚き慌てて、途方にくれるばかりであった


 私たち家族の替わりに、


 強力な愛を送り続けて下さった 皆さんにも、


   心からの感謝を言った。


 言いながら、胸に熱いものがこみ上げてくる・・・



自分より8才も年上の ダンナ様のことを


 妹は、結婚当初から、「おにいちゃん」と呼んできた、


私よりは、二才うえの66歳、


 縁あって、きょうだいとなって今まで・・・・ついぞ


この人のイヤな顔・・・・というのを見たことがない、



いつもいつも、穏やかで、


 何があっても、彼の口からは、人に対する怒りや


  悪口の類の言葉が出たことがないのだ。



だから、父も母も彼が 大好きで


 母は「マサアキさん」と呼び、


 父は「マサアキちゃん」と言って、何かといっては


  今は遠くにいる 実の息子よりも、彼を頼りにしてきた。



そんな彼に、仕事をしている妹も


 クルマに乗れない私も、甘えて来ている、



胃の全摘手術も過去に受けていた マサアキさんは


 体力がなくなると、時々点滴入院をしていた、


その病院で、「倒れた!」という連絡が来て


 駆け付けた時


彼の余りの変わり様に、驚き言葉もなかった、



 目は焦点が定まらず、何本もの管に繋がれた身体は


   何度もけいれんを起こし、


  妹がそのたびに 声を上げ、スタッフが駆けつける、



急いでカーテンが引かれると 中からは、


 医師や看護師の声に混じって


 苦しそうな彼の、ゲーゲーという声が聞こえてくるのだった。



そのたびに、私たちは思わず息を止め、


 妹は、耳を押さえて泣きだした。



何もできない私たちは、ただ心の中で祈り


 私は、苦しむ身体をみつめているであろう


   彼の魂に向かって、


 「どうか、死なせないで下さい!まだ私も父も母も


  マサアキさんに対して、何もできてない・・・・


 今までの恩返しをしてないのです、


  だから、どうか生かしてあげて下さい!」


  と、言い続けた。



片時も目が離せない一週間がすぎて、


 やがて、目の焦点が定まり


離乳食のような栄養食が、鼻のチューブから入れられるようになって


 尿のチューブは、オムツに替わった。



メガネをかけられるようになり・・・・


 鼻からチューブでとっていた食事が


おぼつかない手つきながら、普通の食器で


 口から食べられるようになってきた。



「まだ、12月いっぱいは入院らしいけど、」


 と言う、妹の顔は明るい。



その顔を、もっと明るくして


「ねぇ、きょう、いい事があったよ」と言う、


  「ナニ?」


「お店 続けるの、12月までと決めたんだけど、」


  「うん・・・マサアキさん、その頃までかかるもんね、」


「そう、でね、お金かけて揃えた店のモノ


  ・・・・どうしようか・・・と思ってたら、今日○○の大将に会ってね、


 そっくり買ってくれるというのよ、」


  「へぇ~っ、え?で、○○の方のお店 どうなるの?」


「あれは、もう息子さんに譲って、隠居してたのよ、


 でもね、また やりたいんだって、お店、」


  「そうよね、あれほどのお店やってきた人だもの」


「だから、もう ゆっくりするのも飽きたって、で」


  このお店いいね!、ここ、やろうかなって」


  「ふう~ん、よかったねぇ!、渡りに船っていうんだ、こういうの」


「うん!」


 と、ますます妹の顔は輝いていく。



わずかひと月前に、突然やってきた大嵐の様に、


 思いもしなかった、マサアキさんの入院という出来事は


   私たちの心を、たちまち不安でいっぱいにしていったが、



ひょっとしたら・・・・という思いと、共に


 これまで、彼が引き受けてくれていた部分が、


  どれほど大きく、かけがえのないものであったか・・・・


    私たちは、それぞれの思いで深く


      考える事になった。



その結果、私たちは否応なく


  妹も、アミちゃんも、私や、父や母も


   そしてマサアキさんも


  ナニかを変えなければ、と思いだし・・・


   変えることになった。



 綻びを、急いで みんなでつくろい直し


  もっと強く、頑丈なモノにするために、


それぞれが始める、


  新しいナニかは・・・・・不思議なことに


    私たちの目の先で、


     だんだん輝き始めている。








   つづく