自衛隊の戦艦の《定期検査》の仕事も、そろそろ工期末。
俺達の職場のグループも、今週末で解散だ。

週末、現場の片付けも終わり、午後3時過ぎに、みんなで現場を後にした。
帰り道、みんなでおでん屋に寄って、仕事終了の打ち上げをした。
俺は《打ち上げ》と言う行為は、あまり好きではない。寧ろ《嫌い》な部類だ。
でも、全員が《無事故》だったし、よく口喧嘩もしたが、楽しかったから。
ちょっと、名残惜しい。


翌日から、俺は《無職》。
次の現場は、すぐにあるんだけど、どうも、気が進まない。
《次の現場が嫌》なんじゃなくて、《職種を変えたい》と思うようになった。

前回の現場で一緒だった知人と、しばらくハローワーク通いをした。

とりあえず、チラシ配りのバイトをして、食いつないだ。

ある日、知人に誘われて、隣町の海水浴場にある、浜茶屋に行った。

そこは、浜辺にある《ダンスホール》といった感じで、ブラジル人と日本人がバンドを組んで、様々な曲を、サンバに編曲して唄ってた。

ブラジルの人達は、本当に陽気だ。《日本》と言う《異国暮らし》で、それなりに悩みもあるんだろうけど、そんなこと、微塵も感じさせない。お客のブラジル人達も、底抜けに明るい。
俺は、圧倒された。

知人に《何か唄わせてもらえ》と言われた。
知人は、バンドのメンバー達と仲が良いみたいで、話をしてくれたようだ。
メンバーも、快諾だった。

俺は《ブリキの兵隊》を唄った。

《浮かれた夢が  醒めた朝は  いつも何かが  欠けてるのさ  小雨のせいでもなかろうが  まるで抜け殻みたいさ  》

陽気な空気の中、少々《場違い》な曲かとも思ったが、今、俺が《唄いたい》と感じた曲だったから。

みんな、静まりかえって聴いてくれていた。

唄い終わると、拍手喝采と、指笛の嵐だった。

ステージを下りて、バンドマスターに御礼を伝えると、

『お前、良い声してるな!また、唄いに来いよ!』

と、ブラジルの言葉で言われた。

そろそろ、リハビリも終わりだな………。

道さえあれば

                      じゅうぶんだろう………。
夜………。
仕事でクタクタになり、ベッドに潜り込む。

独りの部屋……。
疲れてるのに、やけに目が冴えてしまって、眠れない。

暗闇の中で、CDプレーヤーの明かりだけが、うっすらと部屋を照らしている。プレーヤーからは、トム・ウェイツのBLUESが流れている……。

俺は2年間《音楽から離れる》と、決めた。病気の克服と、新たなスタートをするために。
だから《活動休止》じゃなく《準備期間》と言う《目的観》を持って。

でも俺は、俺の心の奥底にあるものにも気付いてた。
それは………。
《もう、疲れたな》
と言う気持ち……。

本気で、病気を治そうと思ったのは、嘘じゃない。でも、心のどこかにいつも
《もう、疲れたな…。》
と言う気持ちもあったことは、否めない。


すべてを失って、それでも《夢を追いかけて生きる》っていうのは、TVのドラマではよくある話。でも、現実に《生きる》ということは、そんなに《カッコいい》もんじゃない。人間という生き物は、いや、《俺という生き物》は、そんなにカッコいいもんじゃない。
《一途に突っ走れる》ほど、若くはないし、精神力もない。
《一途に》というよりも、寧ろ《挫折・諦めに抵抗する》のが精一杯……。映画やTVドラマの主人公なら、これを《きっかけ》に、再びやり始めるんだろうけど。

俺の人生のシナリオは、まったく《先行き不透明》な状態。手探りで、必死にもがいてる状態……。

もしも俺が《車》だったら、エンジンはもう《壊れかけ》だ。
でも、そんなことは誰にも言えず、《傾いた夢》を精一杯、まるで、自分に言い聞かせるように、周囲に話す……。

唄いたい………。

でも、もう自信も薄れ、そっと忘れようとする俺もいる……。
暗闇の中で聴こえる、トム・ウェイツの唄声が、胸に痛かった。

CDを、アルバート・キングに替えた。

流れるアルバートのBLUESと、眠れないので、飲みかけた軽い酒に《あの頃》を漂わせて、《壊れかけたエンジン》をもう一度、動かしたがる俺がいた。

《おいら今まで》   by. SONHOUSE

本音は《唄いたい》んだけどな……。

新しい現場での仕事。
通勤に、片道2時間の距離。

朝4時に起きて、弁当を作る。
遅くとも、5時半には出発しなきゃ、渋滞に巻き込まれて、確実に遅刻する。しかも現場は、大手ゼネコンの現場。
その会社の、現場監督に気に入られ、俺の作業するチームの《副責任者》に抜擢され、責任重大だ。

朝5時半に出発し、夜9時前に帰宅。
風呂に入り、少しだけ食事をして、あとは寝るだけ。
そんな暮らしを、7ヶ月ほど続け、現場は無事に終了。


次の仕事が決まった。今度は、地元の現場。自衛隊の船の《定期検査》の仕事だ。
《地元》ということに、かなりの安心感があった。朝が、ゆっくりできるから。

今度も、元請けから直接、仕事の依頼だった。


仕事が順調にあることは、とてもありがたい。ただ、いつもそれなりの《責任》ある役がつくので、休日も《現場での段取り》を考えたり、休日に現場へ行き、翌日の準備をしたりと、自分の時間がなかなか持てない。

それでも、仕事中なんかに曲が浮かんで、トイレに行って曲を創ったりした。

色々と不安になったり、焦ったりするが、ここが《正念場》だ。
こうした精神状態を《楽しめる》ようになれば、しめたものだと思っていた。

そろそろ、リハビリも《終わり》が近づいているように感じてた。

そうそう。
現場が《自衛隊の船》なので、ルールがキツくてイライラしたもんだ(笑)。