『キミに、夢はないのか?』

重かった、末本さんの言葉……。
俺の夢って、いったい何だろう?
【金持ち】になること?  いや、そんなことじゃない。
誰にも負けない【権力】を持つことか?
そんなもん、必要だとも思わない。
数日間、悶々と考えた。出てきた答えは、【俺は、何をやりたかったのか?】と言う、自分のこれまでの生き方への【疑問】だった。

幼い頃、こんなふうに、酒や薬、喧嘩に明け暮れる人生なんて、思いもしなかった。
まさか、少年院を何度も、出たり入ったりするとも、親父と同じような【反社会勢力】に所属するようなことになるとも、思いもしなかった。

自身の過去を振り返った時、ふっと、生まれて初めて【LIVE】をやった時の、表現しようのない【充実感】を思い出した。
その頃の周囲の連中は、今と変わらず薬まみれで、必ずしも良い環境ではなかったが、あの充実感だけは、何故か胸に焼き付いていた。

『そうや!もう1回、歌ってみよう!ダメで元々や!』

俺は、タケルと一緒に、メンバー集めを始めた。
このままじゃあ、本当にただの【ろくでなし】で終わる。遅かれ早かれ、【廃人】か【チンピラ】だ。
そんな人生の【終わり方】だけは、どうしても嫌だ。
【どうでもいい】なんて、もう言ってられない。世間から【嘲笑れっぱなし】で死んでいくのは、やっぱり悔しい。
何もしないで終わるより、精一杯やって、それでダメだったとしても、【思い出】は残せる。

【始める】前から【投げ出す】のは、もうやめよう。

こんな俺にだって、きっと【何かができるはずだ】
そう、心から思った。
アパート付きの会社に就職したものの、タケルと俺の、薬癖が直るわけでもなく、仕事も、行ったり行かなかったりの繰り返し。
相変わらず、進歩がないどころか、寧ろ後退してる感じさえしていた。

その頃、住んでたアパート名は、【さくら荘】。名前は綺麗だが、住んでる人達は、ちょっと頭のイカれた連中ばかり。まぁ、俺達も似たようなものだけど……。
間取りは、六畳一間に流しだけ。トイレは共同、風呂は無し。

ある日、知人の紹介で、【末本さん】と言う人に出会った。
一通り、自己紹介やなんかをして、これまでの俺の生き方を話した後、その人が一言。

『キミに、夢はないのか?』

…………。重い言葉だった。

それまでは、【その日・その時】を生きることしか頭になくて、【夢を持つ】なんてことは、考える余裕も、気持ちもなかった。
もっと言えば、幼少期から【投げやり】な性格になってしまってたから、【夢を持つ】たって、はなから【叶わない】だから【見ない・考えない・持たない】と言う気持ちが、素直なところか。

そんな俺の耳に、久しぶりに響いた【夢】と言う言葉……。

『夢かぁ……。』

久しぶりに、胸が動いた気がした。

末本さんとの出会い、彼の言葉は、日を追うごとに、強く深く、俺の心に刺さっていった。
公園で野宿暮らしを始めて、1週間ぐらいが過ぎた。
持ち金も、すっかり底をつき、俺の自慢の尖ったブーツは、先がパックリと口を開け、雨が降ると染み込んだ。

もう、4月だっていうのに、なんて寒い街なんだろう……。
革ジャンの袖の、縫い目がほどけて、寒さが余計に増した気がした。
食う為の金は、昼間のうちに、街を彷徨くヤンキー達からカツアゲをして、なんとか、その日その日をしのいだ。
夕方、公園のベンチでタケルと飯を食ってると、買い物帰りのオバサン達には、憐れみの目を向けられ、犬の散歩に来たオッサンには
『この、ヨゴレ!』
と、何度も罵られた。でも、返す言葉も、気力もなかった。

『なんとかせんとな……』

2人で話し合っても、タケルはまるで、考えがない。【超】がつくほどの、能天気さだ。
知らない街………。なにしろ、【あて】も【つて】もない。かと言って、帰る金も、気力もない。このままじゃあ本当に、野垂れ死にしてしまう。

ある日、数百円の金でパチンコをして、ぼろ勝ちした。本来ならば、その金で帰りゃいいものを、2人で飲みに行った。そんな単純なことさえ、知恵が回らない。
まったく、間抜けな人間だ。

何軒目かの店で、地元のヤクザと揉めた。その場では、ボコボコにしてやったが、1時間もしないうちに仲間達がやって来て、俺は拉致された。

組の事務所に連れて行かれた。7~8人のヤクザ達……。しかも事務所……。
【こりゃ、殺されるな……。】
覚悟を決めた。

組長が、事務所にやって来た。
あぁ……。いよいよか………。そう思った時、組長が声をかけてきた。

『よそ者か?』

『はい。』

『あてか、知り合いは?』

『いません。』

『そうか。喧嘩は、アカンで。』

『はい。』

それだけで、帰らされた。正直、命拾いした。

翌日から、職業安定所に通った。今で言う、ハローワークだ。そして【アパート付き】の仕事を見つけた。

とりあえず、食うことには困らなくなったし、雨風もしのげるようになった。

これを読んでる方々は、こんな生き方はきっと【おかしい】と感じるだろうし、間違ってると思うだろう。
でも、【スタート地点】がわからなかった俺には、こうやって1つひとつ、【学習する】しか、方法がなかった。

【Time is on my side】……。
意味は、【これからがチャンス】みたいな感じ。
そう思ってた。

第三章    完。